第2話 悪魔の誕生

世界を壊そうなんて普通の人間でも考える人はいるかもしれないけど、悪魔が言うのと人間が言うのとでは説得力が雲泥の差ほどある。

実質、私はその悪魔という普通では理解できないような存在に出会っている。正直、神とか天使とか悪魔なんていないと思っていた。だけど、今こうして私は悪魔と話している。全て人間が作り出した想像上の存在だと思っていた私は、度肝を抜かれた気分だ。

だからこそ--世界を壊そうなんて馬鹿げている話を信じた。

最初は戸惑っていたけど、どうせこんな世界なら滅びてしまってもいいだろうと思っている。勿論、世の中にはいい人の方がたくさんいるんだろうけど、一部の人間のせいで全て台無しになる。

人間を作った神様に一言言ってやりたい。

どうして、こんなくだらない種族を生み出したのかと。

私はずっと思っていた。

人と人同士、どうして仲良くなれないのか。人が人の事を思いあって生きていれば、みんな幸せに過ごせるのに。なのに、そんな当たり前の事が出来ないやつもこの世にはいる。

だから虐めなんかがなくならないんだ。もっと大きい話になると、戦争だってそうだ。

自分の事ばかり考えるから、相手が傷ついても気にしない。

なんて愚かなんだろう。

それこそ、個人個人の性格なんていらないんじゃないかと思った。

みんなが楽しく過ごせるようにと各々が思う性格であれば、今の世界は生まれていなくて、もっと素敵な世界になっていたはずじゃないのか。

こんな事をずっと思っていた。

だけど、それが出来るかもしれない。この悪魔と協力すれば。

希望の光が見えたんだ。



二つ返事で悪魔と契約した私は、早速悪魔になる準備が始まっていた。

「ほな、ちゃっちゃと始めるで」

サタンは指をパチンと鳴らすと、私の目の前の空間が歪み、何やらよくわからない物を出てきた。

「あのー、これは何でしょうか?」と私はすかさず聞いた。

「あれ?あんた見たことないんか?これは金属製の印やな」

「印?はんこですか?」

「まぁそうやな。ていうか、これは学校の授業でも出てくると思うけどな~」

知らないんか?と聞いてくるサタンの言葉を聞いて、私は目の前にある物がなんなのかを考えた。

一分ほど考えた時、やっと思い出した。

「これってまさか・・・昔、刑罰として罪人の額などに押すのに使っていたものじゃ・・・」

「せや。その通り。ご明察。この印を火で焼いて、体に押しつけて印を付ける。烙印を押すって言葉、あんたも聞いた事あるやろ?それやで」

「聞いた事はあるけど、そんな方法で悪魔になれるの?」

「あぁなれるとも。簡単やろ?その代わり、あんたは一瞬やけど『地獄の痛み』を味わう事になるんやけどな。うちはどんな痛みか知らんけど、それはもう凄いらしいで。死ぬほど。うちの友達の悪魔も一人この方法でやったらしいけど、その人間は悪魔になれずに死んだらしいで」

「死んだらしいでって・・・」

言葉が出ない私を見かねてか、サタンは言葉を付け加えた。

「そんな心配せんでええって!例えるならほら、人間が注射を打たれる時の感じや!あれも一瞬の我慢やろ?あんな感じや。頑張りーや!」

「そうは言っても・・・死ぬかもしれないんでしょ・・・?」

「せや。けどな、あんたはさっき、『命を捨ててる』やろ?屋上から飛び降りた瞬間、あんたは命を捨てたんや。だからな、そんだけの事が出来るなら、きっと大丈夫や」とサタンは言った。

その言葉を聞いたら、なんだか勇気が出てきた。

確かにサタンの言う通りかもしれない。どうせ捨てようとした命だ。なら、ここで死んだら死んだでそれもいいかもしれないかも。

「うん!よーし、頑張るよー!」と私は自分を鼓舞した。

「ほんなら、死ぬかもしれない前に一つだけ聞くわ。この『悪魔の烙印』はどこに押されたいんや?体の場所は選ばせたるわ」

「場所ねー。額や腕とかはありきたりだから、おへそにしようかな。その烙印を見る限り、おへそが真ん中に来るように押すとおしゃれっぽいし。おしゃれタトゥーみたいな感じ」

「ほーう。そんな所を選ぶとは、やっぱあんたは面白いわ。よし、なら覚悟を決めやっ!!!」

すると、金属製の印が青色の炎に包まれた。見るだけなら綺麗だが、あれが体に押されるのかと思うとゾっとした。だけど、もう決めたことだ。

「いよっしゃ!ほんならいくでーー!!幸運を祈るっ!!」

そしてついに、サタンは大きく振りかぶって私に烙印を押した。

瞬間。

言葉に表せないほどの痛みを感じた。灼けるなんてもんじゃない。もう痛すぎて声が出ない。

駄目だ。もう死ぬかもしれない。死んだほうが絶対楽だ。あぁぁ痛い。意識がなくなっていくのがわかった。耐えられないと感じた脳が防衛反応を起こしている。良かった。この痛みから解放されるんだ。

そうして、走馬燈を見る暇もなく、私は意識を失った。












「おーい。起きろー。良かったなー死なんくて」

ケラケラ笑いながら、誰かが何かを言っている。

あれ?私、何してたんだっけ。思い出せない。というか、私に声をかけているのは誰だろう。

というか、ここはどこなんだろうか。下が冷たい。家じゃないのかな。

体が重い。なんでこんなに疲れてるんだろう。体が起き上がらない。

目を開けるのさえ辛い状況だったが、神経を集中させて私は目を開けた。

「おっ!起きた起きた!ふーっ、あんたをを起こすのには苦労したわ。顔をずーっとぺチぺチ叩いて呼びかけててしんどかったけど、気ぃ失ってから一時間くらいで起きてくれたのは助かったわ」

すると、目の前に見覚えのある顔がある。

その顔を見た瞬間、忘れていた記憶が急激に蘇ってきた。

脳の処理が追いつかない。それほど私は記憶を忘れていた。

忘れなくていい記憶まで忘れてしまっていた。

一度に思い出したせいで頭痛がひどい。

「私、生きてる。確か、あなたに烙印を押されたんだっけ?」

「せやせや。ほら、自分のお腹を見てみぃな」

サタンに促されて私はふと視線を下に落とす。

すると、禍々しくもどこか神々しい紋様が刻まれていた。

しかし、どこかおかしい。あれだけの炎で印を押されたのに、傷痕がなかった。

「これが悪魔の烙印・・・」

「そや。これで晴れてあんたも悪魔や。良かったな。悪魔の力も手に入った事やし、まずはその力を試しに行こうか。あんたを虐めてたやつらを消しに行くで」

「ちょ、ちょっと待って。いくつか聞きたいことがあるんだけど」

「ん?なんや?何でも答えるで」とサタンはドヤ顔をして、どすっと座った。

「まず一つは、何で私は無事なの?あれだけの炎で焼かれた印を押し付けられて、無事に済むはずがないと思うんですけど」

「まぁ普通は無事に済まないんやけどな。人間から悪魔になったあんたは、もう体質が変わっとるんや。確かに押し付けた時はもう見るに堪えない姿やったけど、五分後にはもう元通りになっとったわ。これが悪魔。普通の傷なら回復する。まぁ例外はあるけどな」

「そうなんだ。なら次の質問。悪魔になったって言うけど、特に見た目が変わってる様子がないのはおかしいの?サタンみたいに翼が生えてるわけじゃないし、特に異変を感じないんだけど」

「そうかぁ?なら鏡を出したるから、よく見てみ」

そういって、再び指をパチンとならすと、どこからか鏡が出てきた。

すぐに確認してみると、私は目を疑った。

「つ、翼がある」

鏡に映し出された自分は、私が知っている私、妃熊 篝とは違った。

眼はエメラルド色に輝き、サタンほど大きくはないが翼が生えている。

手はするどく尖っていて、どんな凶器よりも刺さりそうな印象を持った。

鏡を見る前に自分の体を触っていた時は何も変わらなかったのに、鏡を見た今、体を触ると確かに変化がある。さらに疑問を抱いた私は食い気味にサタンに話しかけた。

「な、なんで!?どうなってるの??」

「それはなぁ、あんたは鏡を見る前は自分がまだ人間やと認識してたからや。鏡を見て本当の姿を知った時、あんたはついに正真正銘悪魔になったんや。まぁ意識の問題かな」

「そ、そうなんだ」

あまり理解が出来なかったが、私はもう一つ重要な事を聞かなければいかなかったので、大した理解もせずに最後の質問をした。

「それと、悪魔の力はもう私にあるの?どんな力なの?」

「勿論や。あんたは悪魔になったんやからなぁ。けどな、どんな力なのかはうちもわからん」というと、サタンは胸の間からキセルを取り出して、一服しだした。

「わからないってどういう事なの?」

「そのまんまや。どんな力かどうかは人による。十人十色ってやっちゃ。悪魔になった基本能力としては、回復力と、人を超えてる力を手に入れてる。人間相手やったら敵なしや。ただ、まだ悪魔には特性があってな。それぞれ特殊な能力を持っている。簡単に言うと、炎を出せたりとかやな。しかも、悪魔一体につき一つの能力ってわけやない。それは運やな。当然、特殊な能力を持てばもつほど強い。けど、それも考えようや。量より質って事もあるし、必ずしもそれがええって訳やない。まあこういう事やわ。実際に戦闘してみーひんと、自分の能力が何かわからんってことや。ほんで、早速あんたを虐めてた奴らで試そうって言ってるんやで」

「そうなんだ。なんかよくわかってないけど、なら早速試してみるよ」

サタンはにっこりほほ笑むと、キセルを胸にしまい、翼を広げて宙に浮かんだ。

「ほな、今からそいつら連れてくるからそこでまっときーや!」とサタンは意気揚々と叫んで、瞬く間に夜の街に消えていった。

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