ゲームスタート(15)
「皆様方にお聞きしたい。この中で死ぬまでに一億円という利益を出せる方がおられますか?」
年収一億円ならアイドルの風火ならいけそうな気がするが、利益となると話は別だ。
「ふざけるな。命だぞ、たったひとつしかない命だぞ」
だからおれは声を張り上げて主張し、揺島や戌亥も頷き、同調する。
「じゃあてめぇはそのたったひとつしかない命とやらが尽きるまで働いて一億円という利益を出せるのかよ」
おれが先程考えていたことを言葉に乗せ、感情のまま言い放つ雉城。考えていただけに何も反論できない。
「でも……宝くじとか……」
アイドル風火が軽率に発した言葉がさらに雉城の癪に障る。
「そんなもの、とっくに廃止されてるだろ」
「いや……まあ、確かにそうだけど……」
気まずそうにアイドル風火が頭を掻く。
「今から……辞退はできないんですか……」
恐怖に怯えた揺島がマリオネに尋ねる。
「それについてはゲームが始まる前にお聞きいたしました。ワタシの記憶違いでなければ誰も辞退する人はおられなかったはず」
「そうだけど……」
揺島はそれでも引かない。
「分かりました。それでしたら脱落として扱いましょう」
マリオネが言うやいなや、助手の和美が揺島の後方に構える。
「待ってよ。もしかしてそれって死ねってこと……」
「そうです。しかしゲームをやめることを望むのでしたら、ワタシどもと致しましては脱落させてあげることしかできません。それが嫌なら優勝するしかございません。脱落するかゲームを続けるか、どちらに致しますか?」
今すぐ死ぬか、それとも生きる可能性に賭けてこのまま狂ったゲームをするか、二者択一のようでひとつしかない選択肢をマリオネは迫っているのだ。
「……やります。ゲームをやればいいんでしょ」
自分の意志で決めたようで実は一方通行の答えを揺島は答える。
揺島の目には涙が浮かんでいた。自暴自棄な返事しか言わせてもらえないその問いはおれから見ても卑劣で許せることではないが、反論する言葉も見つからない。
「それでは改めまして、もう一度皆様方にお尋ねします。この時点でゲームをやめて脱落したいお方はいませんね?」
マリオネは全員を見渡す。全員が頷くしかなかった。
「さて、皆様方がご納得頂いたところでさっそく第二回戦を始めましょう」
マリオネが投票用紙を和美に渡し、和美は無言のまま、参加者に配っていく。
おれは乱雑に和美から投票用紙を奪った。いろいろと気に食わなかった。
「今回のレートは【-5】です」
言うまでもないが巨大モニターにもその数値が示される。
【-5】なんて聞いてない、などとここで反論すれば「ですが、レートにマイナスがないとは言っていませんよ」と言われるのが目に見えているから声には出さない。
さらにマリオネが仮間瀬の利点を話している時にわざわざ「レートの整数分だけ加算」と言った理由はここにあるのだろう。
しかしだ、マイナスレートがある理由をおれは気づいていた。
「クックック」
雉城はモニターを見ながら笑う。おれと同様、雉城もこのレートの意味に気づいたらしい。
ほとんどの参加者がそのレートと先程の惨事に戸惑いながら投票部屋を後にした。
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