ゲームスタート(13)
「計算もできないのか?」
俺は雉城を嘲笑した。しかし――
「バカはお前だ。確かに単純に全票数十六票から考えれば過半数は九。だけどこのゲームでは全票数から求めるという単純計算は適応されない。誰だって自分に自分の票を入れたりしないだろ。つまり十六票から自分の持ち票である二を引いた十四票の過半数、八が正確な数値。ということは四人いれば事足りるんだよ。こう考えることもできる。七人が団結してひとりを脱落させるなら、そもそも一票ずつ入れるだけで事が済む。過半数は超えないが半数には達しているのだからほぼ脱落させられるだろう。それでも心配なら提案したやつが二票入れれば八票という過半数に到達した。俺から言わせれば票を無駄にするような入れ方をしたお前らはバカだね」
「なぜ、それを先に言ってくれないんですの?」
話を聞いて、なるほどと思ったのか戌亥が声を上げる。
「俺としては票を無駄にしてでも、俺に票が入らない確率をあげたかったからだ。あそこでこんな提案をして、危険視されたら自由にできる一票を俺に入れる可能性も孕んでいた」
確かにそうだ。雉城の言うとおり他の誰もが考えなかったことを提案してしまうと警戒されて先に潰される恐れがあるだろう。
「まあこんなことどうでもいいことだ。それと確かに俺も安食も二票は入れてないが、仮間瀬を脱落させるという意味では事を成しえているわけだから批難される謂れはない」
屁理屈のようだがまかり通っている。おれは拳を震わせ、耐えるしかなかった。
「さて」
今まで沈黙を保っていたマリオネが静寂を確認すると声を発した。
「脱落者が、仮間瀬戌様に決まりました。レートは【1】。仮間瀬様のみ、特別ルールでしたので加算金額は一千万円。合計賞金金額は一億一千万円です」
同時に巨大モニターにその額が表示される。
「それでは仮間瀬戌様。前方のステージへどうぞ」
「何をする気だよ?」
躊躇う様子を見せつつも、拘束が解けた仮間瀬は何の疑問も持たずに白いステージへと登る。おいおい本当にパフォーマンスでもするつもりか。
「それでは壁に背をつけてお待ちください」
促されるまま、仮間瀬は壁に背を密着させる。途端、壁から拘束具が射出され、仮間瀬の両腕と両足を固定する。その姿は十字架に磔にされた魔女のようだった。
おれは突然出てきた拘束具に声を上げて驚いてしまう。少し間抜けな自分をごまかすように咳込むがそれもごまかしだというのがバレバレで恥ずかしい。
助手の和美が壁から射出された拘束具がきちんと固定されているか確認する。
「どういうことだ?」
ここに来てようやく仮間瀬は動揺を見せる。壁に磔になった仮間瀬をひとり残し、和美はステージから降りる。
マリオネがステージ近くの壁に備えつけてあったボタンを操作すると、ガラスの板が現れ、白いステージに誰も入れないように囲いを作る。
「それでは皆様方、ご注目を」
仮間瀬の右側に現れたのは鈍い色の鋭利な刃。しかもそれは仮間瀬の首に近い。
さらによく見れば仮間瀬の首筋近くの壁に、まるでその刃が通るような道筋が作られていた。
それを確認した途端、おれの脳裏に嫌な予感がよぎる。
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