ゲームスタート(2)

 戦後、戦争の後遺症とでも言うべき病気が全世界で発症した。発症者は十代~二十代の女性。

その病気は『眠姫』と名づけられた。発症した女性は全員が眠ったまま起きない。

 もちろん最先端の医術を駆使して命は繋ぎとめられている。しかし貧困に喘ぐ人のなかには国から支援金があったとして発症者の医療費を払いきれず、発症者を死なせる選択しかできない人もいた。

 その病気は今でも発症することが多く、おれの恋人は十五歳の時に発症し以来、この病気が原因で眠ったままだ。

 五年後、彼女が二十歳の時、彼女の親は彼女を死なせることを選択した。だがおれは、反対した。彼女の親を説得し、おれが医療費を払うことで彼女の命をこの世に繋ぎとめた。

 その翌年、『眠姫』のワクチンが開発されたという報道がされた。ただし政府認可のものではない。ひとりの薬剤師が自分の娘と妻を救うためにひとりで作り出したものらしい。

 すぐに大量生産されると思い込んでいたおれは歓喜したが、それが勘違いだったと分かったのは次の日だった。

 その薬剤師はワクチンを国へ提供するつもりはないのだと言う。取材へ行った記者には「欲しければ一億円持って来い」と一言述べたらしい。

 しかも用心深さは人一倍。ワクチンに関するデータとは全てこの薬剤師の頭の中だった。さらに一億円払って薬を入手しても、その薬を分析されることを恐れたその薬剤師は自らの手で患者を治し、自分以外の誰の手にも触れさせない。

 恨みを買うのは当然だった。しかし殺されるという最悪の結末にはならなかった。誰かが憤り、仮にその薬剤師を殺そうとしたとしよう。しかし殺してしまえば発症者は助からない。だから手が出せない。

 さらに妻や娘を誘拐され脅迫されることを恐れた薬剤師は、自分のワクチンを国民に販売する代わりに政府に保護を要請した。保護が認可されなければ、いくら大金を積まれても治療する気はない、そう言われれば政府も保護せざるを得なかった。

 だから結局、『眠姫』を治したい人達は、必死に一億円を稼ぐ必要があったのだ。

 そんな事情もあってか、クイズ番組はさらに増大し、なんとしてでも『眠姫』を治してやろうと思う参加者で溢れかえった。当然おれも応募ハガキを送ってみたが、当たることなどなかった。もしかしたら製作側が選別しているのかもしれない。

  彼女の医療費を払いながら一億円を貯める。そんな目標を定めても到達できないのが頭で理解できてしまい、ため息が出た。

 そんな折だ、見知らぬ誰かからおれの元にメールが送られてきた。

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