爆弾魔ハンター

今朝は素晴らしい目覚めだった。


 何故かと言えば轟音で目が覚めたからな。


 それはもう腹に響く重低音でしたわ。


 飛び起きてリビングに向かうとアーサーがすでに起きていてメールチェックをしていた。


「おはようアーサー、こりゃ何事だ」


「八百屋が吹っ飛んだ」


 八百屋が吹っ飛んだ!?あの親父いったいどんな怪奇野菜仕入れたんだよ。


「なんかメールきてるのか?」


 アーサーがパソコンの画面が見えるよう体をずらしたのでメールを開く。


「なになに、指名手配中の凶悪犯がクリミナルヘブンに潜伏?そんな奴ら腐るほど居るだろ。隣のベン爺さんなんか殺人4件に強姦3件、強盗3件の凶悪犯じゃねぇか。最近はボケて壁に向かって恫喝してるけど」


 アーサーが頷いている。


 俺だってアーサーだって何人殺したかなんて数えてねぇ、そんなレベルの悪人がゴロゴロしてるのになぜそいつだけ。


 答えは次の行に書いてあった。


『逃亡犯には連続爆破の容疑がかけられている。さらに米軍が極秘開発中の高性能爆薬を所持して逃亡中』


 爆弾魔かよ!つまり八百屋はそいつが爆破したと!


『なお彼には500万米ドルの懸賞金がかけられている』


 ヒャッホー!狩りじゃ狩りじゃ!爆弾魔狩りじゃー!


「アーサー!爆弾魔に賞金が懸かった!なんと500万米ドルだ!」


 あ、こいつちょっと震えてるぞ。


「と言う訳でアーサー君爆弾魔狩りのお時間です」


 またちょっとアーサーの目が煌めいた。





「さあさあ、お集まりの紳士淑女のクソッタレ諸君、祭りだ」


 広場から歓声が上がる。


「対象は指名手配中の爆弾魔!容姿は配布した写真に記載!捕縛した賞金は500万米ドル!」


 再び広場から歓声。


「しかし、問題が有る。由々しき問題が。貴様らは犯罪者だ。あ、こいつが賞金首ですってのこのこ連れて行ったらお前らも纏めて監獄行きだ。だからこの俺が仲介をしてやる。もちろん分前は貰うがな」


 今度は広場からやじが飛んでくる。


 なになに金の亡者?守銭奴?はは、上等だよ。


「うるせえ!いいから早く狩って来い、可愛い俺の猟犬ども!金が欲しいだろ?はいスタート!」


 広場から皆一斉に駆け出す。


 さて俺達も行くか。


「アーサー準備はいいか?」


「レンジャー」


 そんな気怠そうなレンジャーは居ねぇよ。


 さてさて、どう攻めようか。


 軍用センサー類を街に仕掛けつつ探索を進めることにした。


 んーでも動体検知も金属探知機も銃持って走り回ってる奴らに反応してしまう…


 スマートセンサーにするか、これなら情報処理しつつ目標の身体情報を判別してくれる。


 ぐるりと街にセンサーを取り付けた所で反応があった。


 これは、炭鉱の入り口だな…


 そうか、炭鉱に逃げ込めば中は迷路だ、上手く出口を選べば逃げられる可能性もある。


 しかし、なんの準備もなく炭鉱には入りたくない、一度準備してから行くか。




 この街は元は炭鉱街だった。


 街の南側に広がる山にはアリの巣の様に炭鉱が広がっている。


 内部はもう何十年も使われていないし、崩落の危険性すらある。


「暗いな…そんな時はこれ!軍用ライトー!明るさ15000ルーメン!照射距離1800メートル防水防塵耐衝撃の優れものお買い求めはレドリック商店で」


「誰に宣伝してんの……」


 よし、爆弾魔を探そう。


「そんなライト点けてたら追ってるのバレるだろ」


 …………俺はそっとライトを消した。


 暗視ゴーグルで進むことにしよう。


 迷子にならないようケミカルライトを置きながら下へ向う。


 暫く進むと熱感知レーダーに反応があった。


「熱源感知」


 アーサーが剣を抜き忍び寄る。


 その時後方で轟音がした。


 しまった、通路を崩された。


「ははは、ようこそ死地へ」


 男が振り向く。


 足元には金属製の箱がある。


「それがスーパーテルミットか」


「ああ、もうスイッチは入ってる」


 スーパーテルミットとはアルミニウムと酸化剤の組み合わせを㌨サイズまで細分化した物質で高速で反応し摂氏4000度程度の熱を発生させる。



 それを軍事転用したものがスーパーテルミットインシンディアリーボム、通称STIBだ。


 通常のテルミット焼夷弾の代わりにスーパーテルミットと反応剤を添加した焼夷爆弾で高熱と衝撃はで周囲を焼き払う。


 そんな物を鉱山で爆発させたら、ましてやここは炭鉱だ粉塵で連鎖爆発が起きるぞ。


「何が目的だ」


「実験だよ、新しい爆薬を手に入れたら実験しなきゃね」


「じゃあなんでここなんだ」


「偶然だよ、逃げた先がたまたま此処だっただけだ」


 あーこれ駄目だマッドサイエンティストって感じ…


「逃げ道塞いでどうすんだよ」


 奴はポケットから拳銃を取り出す。


「お前らを殺してから考えるよ」


 あはーこいつも脳がやられちゃってる系だ。


「アーサー殺すなよ」


 キラキラした目でこっち見んな。


「ジョンに手出してみろ首と胴体がおさらばするぜ、バイバイ身体また来世でってな」


「ぶった切るのは死なない程度にな」


 剣を低く構えるアーサー。


「死ねぇぇ!!」


 発砲する犯人。


 だが、俺のライトが煌めく方が速い!


「ぐぁぁぁ目がぁぁぁ」


 この軍用超強力ライトを直接目に受けたら昼間だって目が眩む。


「アーサーやったれ!」


 アーサーが拳銃を剣で弾き落とし腹に蹴りを入れる。


「どうだ殺せよ、科学者の俺を殺すくらい余裕だろほら!早く!」


 アーサーが剣を振り上げる。


「おう、殺してやるよ断罪の時間だ神に祈れよ」


 犯人はへらりと笑う。


「神?はは、俺は科学者だ神など信じぬ」


 アーサーが剣を振り下ろした。


「アーサーやめ……」


 死神の鎌は振り下ろされ、罪を裁く。


「お前殺したら爆弾どうすんだよ」


「あ………」


 あ、じゃねぇよ!どうすんだよこの爆弾!


「逃げるぞ!」


 あー逃げ道塞がれてるぅぅぅ。

 どうするどうする!?


「ジョン俺が岩を退ける」


 アーサーは特殊な病気に罹っている。


 病名はミオスタチン関連筋肉肥大。


 人間は自らの筋肉を成長させ過ぎないよう筋肉の分解を促進するミオスタチンというタンパク質を生成している。


 アーサーはこれが極端に少ない。


 つまり筋トレをすればするほど筋肉が増強される身体なのだ。


 痩躯に見えるが服の下はガチガチの筋肉で固められている。

「お前そんなことしたら体が」


 大岩を退けていくが過剰な重量はアーサーの骨を筋を破壊していく。


「やめろよアーサーそんな事したらお前…なんでそんなに…」


「ジョンを守るのが俺の役目だから、ジョンを助けるのが俺に居場所をくれたジョンへの恩返しだから、俺は何とでも戦う、それが例えどんな相手でも戦う」


 アーサーもういいじゃねぇか、ここでお前と死ぬなら悪くないよ、なあだからもうやめてくれよ…


「アーサーやめてくれ、もう再起不能になっちまうよ」


 岩を退けていたアーサーが振り向く。


「心配するな俺は約束は違えない」


 ついに崩れていた瓦礫を退かし終えたアーサーは倒れ込んだ。


 俺はアーサーを背負いケミカルライトを頼りに出口へと向う。


 あと少し…あと少しで出口だ…


 地下から地鳴りが聞こえた、ついにSTBIが起爆したのだ。


 俺は走った、アーサーを相棒を背負い出口へと。


 しかし、あと少しで出口という所で爆風に追いつかれた。


 俺とアーサーは木の葉のように舞って地面に叩き付けられた。


 ブラックアウト、俺記憶はここで、途切れている。


 後日病院で目を覚ました俺は身体のあちこちを骨折していた。


 アーサーも幸い数カ所の骨折で済んでいた。


「なあアーサー、もうあんまり無茶すんな」


 窓の外を眺めていたアーサーは


「ああ」


 と素っ気無い返事だった。


「結局500万も貰えず骨折り損のくたびれ儲けとは正にこの事だな」


 病室に明るい笑い声が響いていた。


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