第321話 時間が足りない

「おおおぉぉぉぉ!」

「っと!さっきより強くなったじゃないか。」

俺は目の前の敵相手にがむしゃらに剣を振るう。相手の方が速くて、強い?

そんなのは分かっている。だが、知った事じゃない!


相手の攻撃が来る。

最低限の動きで避ける。いや、正確には致命傷にならない程度に避ける。

肉が斬られて痛みが走るが、そんなものは無視だ。

避ける動作が少なくなったおかげで、俺の剣が相手に届き始める。


とはいえ、受けられるか、かすり傷程度しか与えられないが、それでも構わない。

今は、殺す事しか考えない。

「土よ!原初たる恵みの息吹よ!罰を犯す者に「させるか!」――っぐぅ!」

チッ!呪文詠唱が邪魔された!


「馬鹿だな。無詠唱で魔法を発動するようにスキルがあったはずだろ?」

ああ、確かにあったな。何でだ?今の今まで忘れていた。

最初は呪文を唱えるのが恥ずかしくて、それを取りたくて仕方なかったはずだが。が、

「お前に言われるとムカつくんだよ!」

「親切心で――おっと、教えてやってるのにな。あ、後ろも気を付けな。」


言われなくてもわかっている!

【見識】に映っている、アリアに近付こうとするゾンビもどきの元へ駆けつけて

一撃で屠る。

そして、俺の隙をついて、魔王が背中から斬りかかってくる。

「ッ!」

「ほら、どうした?」

クソッ!こいつを早く殺さないと、アリアの命がマズい!





「もう!こんな時に限って、転移魔法が使えないなんて!」

「早く行かないと、二人が危ないよ!」

「分かってる、分かってるわよ!」

遠目に見える二人がピンチに陥っているのに、助けに行くことすらままならない。

リュリュ達は焦っていた。


「我が輩が向かうである。」

「ちょ、サーシャ!?一人じゃ無理だって!」

「我が輩の薬があれば、少しは回復するかもである。」

アリアが斬られたところは全員が目撃していた。しかも、その後の魔法も効果が

無かったのか、立ち上がる事すらしないのも確認している。


「行ってくるである!」

「あ、ちょ!」

サーシャがアリアに向かって駆け出す。引っ張られるように死んだ者たちが

殺到する。


真っすぐに、横に、上下にと避けていたが、次第に道も無くなっていく。

「あんまり、やりたくなかったであるけど……ていっ!」

サーシャは三つの袋を取り出して、地面へと叩きつける。

失敗した結果が爆音とともに周囲に襲い掛かる。


「うぇっ……げほっ!」

わざと爆発を起こし、周りの敵ごと自分を吹き飛ばして、アリアへと近寄っていた。

爆発に対し、神鉱石を埋め込んだ靴を向けていたため、そこまでの被害は

及ばなかったものの、さすがに多少のダメージを負っている。

しかし、今は自分よりもアリアを助ける事に集中する。


サーシャは再び、アリアの元へと走り出した。

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