第320話 実力差

それから猛攻が始まる。

「どうした?もっと真面目にやれよ。」

「ぐっ……う!」

兄貴が放つ剣は、重く、鋭く、まともに受けきれる物ではなかった。

死ぬ気で避けて、剣筋を逸らして、無理だと思ったら情けなく地面に転がり、逃げ回る。


「勇者殿!あぁ、もう!なんで、こんな時に指輪の効果が発動しないんですか!?」

「兄ちゃ……って、うわぁ!」

離れたところで皆が戦っているが、こちらの心配を出来るほどの状況でもないらしい。

ゾンビもどきが、わらわらと群がっているのが視界の端に映る。

しかも、スターナは鞭をメイン武器にしている。という事は、転移魔法の邪魔をされているのか?


「よそ見をしている暇があるのか?」

俺が他を見ていることが気に食わなかったのか、先ほどよりも速度を上げて斬りかかられる。

段々と傷が増えていくが、離れることも敵わず。

「その程度の腕で、俺を殺しに来るなんてな。」

呆れたように溜息を付く兄貴。


どうしようかと考え得る暇もなく、前蹴りが鳩尾に入った。

「がはっ!」

俺は、血反吐を吐きながら吹き飛ばされる。


「あのな、次哉?お前じゃ俺には勝てないんだよ。」

見下ろしながら、兄貴は言う。


「自分でもわかってるだろ?お前はガキの頃から、ずっと俺の陰に隠れていた。

俺に助けられなきゃ、生きていけないような、どうしようもないクズで、弱くて、

存在価値なんて何もないゴミだったんだ。」


聞こえてくる言葉に、脳が支配されていく……


「俺が毎回助けてやったのは、どうしてだと思う?お前みたいなゴミを助けると、

優越感に浸れるんだよ。」


頭の中がグチャグチャになる……



「体のいい、引き立て役って感じだ。ただ、まぁ


――死ねばいいのに・・・・・・・って思ってたよ。」



俺は……誰にも生まれた事を望まれてなかった……

どうして俺は生きている?あの時に死んだままなら、楽になれていたのか?



気付いたら、目の前には兄貴の姿。

怒りがふつふつと沸いてくるのに、何故か力が入らない。

俺は兄貴を嫌っていたくせに、生きていても良いと認められたかったのか?

我ながら随分と都合のいい……


自嘲の笑みが自然とこぼれる。

「死ね。」

俺を目掛けて剣が振り下ろされるが、何かの影が視界を遮り、重い物が衝突した。


「あぐぅっ!!」


同時に聞こえる悲鳴に、影の正体を悟る。


「痛っ……いです……ね……」

「アリア!おい、アリア!!」

急いで、覆い被さるアリアの下から抜け出て傷を見てみると、出血が酷く、

目に見えて顔色が悪くなってるのがわかる。


「待ってろ、すぐに治す!水よ。深き生命の源よ。傷付き倒れた者の

清らかな魂を癒したまえ。キュア!」

治癒の呪文を唱えるが、一向に良くなる気配がない。


「くそ、何でだ!?」

「あぁ、俺が斬ったからな。」

俺達をつまらなそうに見る兄貴に視線をやる。


「魔紅石は負の精神の塊って言ったろ。それに傷付けられたら、同じように

精神力で治す魔法じゃ、まず回復なんぞ無理だ。」

そして、自分の胸元を指さす。

「これの影響を受けてるわけだから、壊せばどうにかなるかもな?」


「……アリア、悪い。もう少しだけ我慢してくれ。」

「ゆ……しゃ、ど……」

本当に救えないな、俺は!

剣を構え直して、魔王へと向ける。


「お前はブチ殺す!」

「へぇ。マジ切れするなんて、いつ以来だ?そんなに大事だったか、その女?」

軽口の一つ一つすらイラつく!

さっさと死ね!

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