第308話 向かう先

「脳筋、クックルがあった場所はどこだ?」

「ここからさらに北に向かったところです。」

そこに向かうとしよう。先代の勇者とやらが眠っているという場所に。


「勇者殿ぉ!」

……あまり思い出したくないが、聞き覚えのある声だ。

「はぁ、はぁ……お戻りになられたのですね!?いやぁ、げほっ、ごほっ!ふぅ……

旅はいかがでしたかな!?」

脳筋がドン引きしている。そういや苦手だったな、お前。


「このヨーグ、どれだけ勇者殿の事を待ちわびていたか!もちろん姫もですぞ!

早速お会いに「いや、やめておく。」……左様ですか。」

目に見えて落胆している。コイツなら構わんが。


「そういえば、ウルム王には会われたのですかな?まったく、最近のウルム王にも

困ったものです。城を護衛させるはずの騎士団を理由なく遠征させるとは。」

「待て。遠征だと?どこに、誰をだ?」

このタイミングで、そんな話が出るとなると……


「二十日ほど前に首都が移転する前の場所に、ガナガ率いる第5騎士団を

向かわせたのです。まったく何を考えてるんだか。」

アイツか。


「ね、ねぇズギャ。もしかしてなんだけど……」

「おぉ、これはこれは勇者殿のお仲間ですか。自己紹介が「さっさと行くぞ。」あ、

ちょっと待って、待ってくださいよ勇者殿ぉ!」

後ろで叫ぶヨーグを無視して早足で城を抜ける。


「勇者殿、あの、第5騎士団の人達はどうなるんでしょう?」

「犠牲だの生贄だのとほざいていたからな。二十日も前だと、どんなに急いでも

間に合わん。最悪の事態は想定しておけ。」

「そんな……」

ジュッドといい、ウルムといい、兵士達を駒としか思ってないんだろうな。

どうする?スターナの魔法で行ってもいいが、何があるかわからない以上、なるべく

万全の状態を保っていてほしい。


そうして街中を歩いていると、さらに見知った顔に声を掛けられる。

「みなさん、どうしてここに!?」

声を聞いた途端、脳筋がそいつと俺の間に割り込む。


「……何してる?」

「護衛です。」

「私、なにもしませんよ?」

ずっと前に俺達を過去へと飛ばしてくれたサラだった。





「北の方へですか。」

「あぁ、今から向かうんだが、ダラ車なり用意できないか?ただ、できれば

御者は自分達でやりたいし、あまり体力を消耗しすぎるのは困る。」

「……」

「やはり無理か。であれば普通のダラ車でも構わない。」

俺の言葉にサラは考え込む。言ってなんだが無茶すぎるしな。


「二日……いえ、一日待って頂けますか?どんな手を使ってでも用意いたします。」

物騒な単語だ。だが、こちらも手段を選んでいられるほど余裕がある訳じゃない。

「すまん。」

「いえ、では明日の昼、街の前で待っていてください。準備があるので私はこれで!」


サラが走って去っていくと、脳筋が警戒を解く。どれだけだよ。

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