第307話 ウルムとの謁見 その2

「魔王復活に関しては、このくらいでしょうか?説明してはみたものの、早めに

復活させて、倒すだけ。ただそれだけですな。」

「犠牲になるヤツが大量に出ても、か?」

「それは価値観の相違というものでしょう。」

ウルムの眼が、不思議な物を見る眼に変わる。


「一万の人間を守るために千人死んだとして、しょうがないではありませんか。

人間が滅びるのに比べたら、戦争で死ぬ命など微々たるものです。」

「……」

元の世界では、小説やなんやらで似たようなセリフを言う登場人物がいるし、倫理観の

問題でも同じような出題はあったが、自分が出される方になるとは思わなかった。


「ですが、人間というものは勝手でしてな。自分や周りの人間が含まれなければ

それは正義だと賛成し、含まれれば悪だと拒否するのです。ならば、それにすら

気が付かない内に礎になってもらえると、こちらとしても非常に手間が省けますので。」

「そんな……それこそ勝手な理屈じゃないですか!」

脳筋がウルムを鋭く睨にらみつけて叫ぶ。


「私達は誰かを護るために騎士になったんです!それを……それを!」

「何を言っている?彼らは、確かに誰かを護るために死んでいったのだ。」

「違う、違います!」

騎士として誇りを持っていたのに、魔王復活のためだけに犠牲扱いされ、死んでいった

ヤツらを思って、脳筋は怒っているんだろう。


「お前は、何故そうまでして魔王を倒したいんだ?」

「この国を豊かにするためですよ。妻の愛した国なのでね。」

妻?

「アレは聡明だった……私が心を許せる唯一の人間であった……」

ウルムは語り出す。


「バカな人間どもを相手にしながら、いつも笑っていた。なぜ笑っていられると

聞いたら、誰かが笑うと嬉しいからだと答えた。俺にはその感情が理解できない。

それでも愛していたのに……馬車で移動中、突如襲ってきた魔物に殺された。

だから、決めた。あの醜悪な化け物どもを一匹残らず消滅させてやると。」

抑揚のない口調で言い切ったウルムの眼に光は無かった。


「……今、レリアは?」

「クックルが元あった場所にいる。そこへ向かうといい。勇者殿には魔王を

倒してもらわないと困るからな。」

多分、コイツは正気を失ってるんだろう。妻が死んだ時か、その後か……

いつからかは分からんが。


今、コイツを相手にするのは時間の無駄だろう。殺してどうにかなる訳でも

ないのであれば、放っておくか。

そう思い、俺は背を向けて歩き出し、他の五人も戸惑っているようだが、

付いて来てくれている。


「勇者殿。」

「なんだ?」

「さっき言った、一万の人間を守るために千人殺さなければいけないのであれば、

勇者殿はどちらを選ぶ?」

どちらを選ぶか……

「答えは決まってる。」

「ほう?」


「そんなもん、一万千人守ればいいだけの話だろうが。」


俺の答えに呆れたような表情をするウルム。

「それはルール違反では?」

「知るか。お前の決めたルールなんぞ、俺には関係ない。」

そうして俺達は謁見の間を後にした。




「一万千人を助ける……それが出来る者に勇者という肩書が付くのか……

まぁ無理だろうがな。そんな事は絶対に出来ん。偽善者の言葉だ。」

ウルムは次哉達が去った後も、しばらく佇んでいた。

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