第294話 狡猾なジュッド

「……!痛ッ……く、ない……?」

「ツクヴァ!」

まさか、こうもまともに食らうとはな……

肩から大量の血が出るのなんぞ、この世界に来て初めてだ。アイツの爪は

神鉱石と同等の硬さになっているから、当然といえば当然か……


「クカカカ!」

「笑ってるなよ、イラつく……」

俺にダメージを与えた事が嬉しかったのか、手を叩きながら叫ぶように

笑っていやがる……


「兄ちゃん!ゴメン、ボクのせいで!」

「違う。俺が相手をすると言ったのに、抑えられなかったのが原因だ。

そんな事よりも、まだ敵は残っているだろ……」

「でも、顔色も悪い……」

「問題ない。そっちは頼むぞ。」

俺の心配をするフィルに言葉に重みを持たせつつ言い含める。


「フィル!一人じゃ持たない!」

詐欺師が食い止めているが、いまだ尋常じゃない数の敵が攻めてきている。

いや、正確には倒されたはずの敵が溶け、近くの死体と融合して、再生している。

数が多いと、こんな芸当もできるのか。


「分かった……兄ちゃん、気を付けて!」

フィルは涙を拭い、詐欺師の元へ走っていく。さて、素直に回復させてくれれば

いいんだがな……

「水よ。深き生命の源よ。傷付き「クカァ!」」

回復魔法を唱えようとすると、邪魔するように攻撃を仕掛けてくる。


「ぐっ!」

さすがに大量に出血したまま、魔法に意識を向け、ジュッドの攻撃をいなすのも

難しいので、防戦に入るしかない。

相手もそれを理解しているらしく、ここぞとばかりに攻撃するスピードを

速めていく。さて、どうするか……このままじゃジリ貧になる……!


相手の攻撃をなんとか受け流しながら、考えるがいい案が浮かばない。

しかも隙あらば、二人に向かっていこうとするので、攻撃を緩める訳にも

いかない。

そうこうしている内に、自分が壁際まで移動するハメになっている。


追い詰めたと確信したのか、口が裂けるほど――いや、実際に口が裂け、高笑いを

している。確かにこの場所は不利すぎる、が、

「ここは……!」

俺がそれ・・に気付いたのと、ほぼ同じくらいにヤツが俺に飛び掛かってくる。

おそらく、自身のスピードと全体重を掛けた一撃で勝負を決めに来る気だ。


「クカカカカ!」

あともう少しで、俺に爪が届く。

このまま全力の一撃を叩き込めば、それで倒れなかったとしても、隙を見せるはず!

と、考えてるのが丸わかりだ。

そして俺は……



後ろ・・に一歩下がった。



「クカ!?」

当たると思っていた爪が空振りして、俺が壁の中にめり込んだ事に驚き、

バランスを崩すジュッド。

どうやら、この仕掛けは城中にあるらしい。



「おおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」



大上段から振り下ろした渾身の一撃は、ジュッドを左右へと分割していった。

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