第293話 王城の中

「でぇりゃあぁぁぁぁ!」

フィルが斧を振り回す。多少の狙いは付けているが、そこまで広くない

通路では適当に振り回しても当たる。

斧が当たるたびに吹き飛んでいく兵士達。


だが……

「クケケケケ!」

「だぁ、もう!しぶとすぎるったら!」

体の一部が欠損、酷い場合は半分ほど無くなっているにも関わらず、

それでもフィルに襲い掛かる。


チリィン……


今の場に相応しくない綺麗なベルの音が鳴ったと思うと、迫っている

兵士達はまとめて爆散していく。

「これだけバラバラになれば!」

リュリュの手に握られているベルで攻撃したらしく、まともに食らった兵士達は

体が分断された。

それでも中には動いているヤツがいたが、手足が無いとままならず、

しばらくすると最後のあがきもしなくなっていく。


「いい気分じゃないわね……」

リュリュは自分の攻撃で死んでいったヤツらをみて、いいようのない不快感を

覚えているらしい。眉間に深いしわが刻まれている。

「凹んでる場合じゃないよ!」

フィルの言葉に顔を上げると、後から後から兵士もどきが殺到してくる。


「どれだけいるのよ、まったく!」

手に持ったベルを唯一の武器にフィルとリュリュは攻撃を仕掛けていく。





「クケケケケケケケケ!」

「叫び声なんかは似たり寄ったりの癖に、強さが違うのがな。」

やせ細ったジュッドがこちらをジッと見てくる。

眼球が張り出し、周りの肉がくぼんでいるせいで、今にも零れ落ちそうに

見える。元がライオンの獣人だったせいか、まるで獲物を狙う肉食獣のそれに

似ている気がする。


「ふっ!」

俺が振るう剣を避け、いなすジュッド。異常なほどの速さでこちらを

かく乱しようとしてくる。

「クケ!」


ギィン!と甲高い音が鳴る。爪と剣がぶつかり合い、火花を散らす。

「神鉱石の剣を受け止めるとは……な!」

力比べのつばぜり合いになっていたところで急に力を抜き、ジュッドの

バランスを崩してやると、体が前のめりに倒れてくる。

それを上に蹴り上げようとするが、俺の足を踏み台に噛みついて来ようと

したので、

「ギィア!」

思いっきりぶん殴ってやったら、悲鳴を上げながら壁に向かって飛んでいく。

が、当たる直前に空中で回転し、壁を地面に見立てて、着地した。


「しぶといな。」

「クカ……カ……」

相手も今の攻防で分が悪いと踏んだのか、様子を伺っていたが、急に横を向き

走り出した。


「なっ!?」

その狙いはフィル。

出遅れた事に焦りを感じながら後を追う。


「クカカカカ!」

「へっ?」

フィルは近付くジュッドに寸前まで気付かず、兵士達を相手取っていたため、

反応できない。



ジュッドの爪がフィルの眼前に迫った――

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