第283話 どうにも動きづらい

「貴方がサーシャちゃんのおじいちゃんを……?」

「どうだろうね?」

騎士の恰好をしているのに、随分と砕けた口調のエーディに、眉を

しかめる。


「まぁ、そんな事どうでもいいんじゃないかな?それよりも、これから

どうするかを考えた方がいいよ?」

そう言うと、笑い続けていたガーゴイルが一変、サーシャに襲い掛かろうと

するのを、アリアが剣で食い止める。


「クケケケケ!」

「ぐっ!スターナさん、転移魔法は!?」

「どうやっても、キャンセルされるの!」

「あぁ、だってコレがあるからね。」

会話に入ってきたエーディが見せてきたのは、何故か光り続けている石。


「これは付近で転移を行わせないための物でね。よっぽど精神力が強ければ

使えたかもしれないけど、アンタの転移魔法って特殊らしいし、

無理じゃないかな?」

「……ワタシの魔法特性も知っているのね。」

「敵の素性を調べるのは、当然でしょ?」

アリアはサーシャに祖父を斬る瞬間を見せないため、手加減しながら戦い、

サーシャはスターナの腕の中でもがき続けている。

それを見て楽しそうにほくそ笑むエーディ。


「頭に来たわ……!」

スターナが魔法を発動する。しかし、それは転移魔法ではなく、

「おっと!」

エーディを攻撃するための魔法。地面や空中に無数の魔法陣が出現する。

が、発動するのは炎や風、罠といった物のみ。


「それ、どうやら実体がある場合しか、転移のキャンセルが出来ない

みたいね。」

「危なっ!そうみたいだね、知らなかったっと!」

いくつか発動がキャンセルされ、数がだいぶ減ったせいか、エーディは

何とかといった感じで避ける。それを見て、スターナは発動できる

魔法のみでもう一度、周囲を埋め尽くす。


「食らいなさい!」

スターナの号令で魔法が飛び交う……はずだった。


「甘いよ。」

剣を抜いたエーディが、魔法陣を斬りつけると、ギィンという鉄が

擦れ合うような音とともに消滅していく。

「えっ!?」

一部、手薄になった個所から囲みを脱出するエーディ。その手に

持っている剣から、禍々しい空気が漂ってくる。


「どうかな?お気に入りの剣なんだけど、魔鉱石製でね。何と魔法も

斬りつける事が出来るんだ。凄いだろ?」

自慢げに高々と上げ、見せつけてくる。


状況が先ほどから一切変わっていない。エーディを攻撃しても、そう簡単に

倒せそうにもないし、サーシャを抱えたまま移動できるほど、スターナに

体力もない。必死でもがいてるのを抑えているので精一杯なのだから。

どうしようもないのか?

スターナがそう考えていると、アリアの方から声が聞こえた。ただ一言だけ。



「サーシャちゃん、ごめんなさい。」


その言葉を言い終わると、ガーゴイルを力で押し返し、体勢が崩れたところを

横薙ぎに一閃。ガーゴイルの体が左右にズレていき、腐ったものが潰れたような

音がして、地面に倒れこんだ。

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