第282話 戻らない過去

「そんなに呆けてどうしたんじゃ?」

「お、じい……ちゃん……なの?」

サーシャの前に現れたガーゴイルは、昔と変わらぬ笑顔でサーシャに

話しかける。


「だって、薬の爆発に……それに町の皆に手伝ってもらって、遺体も埋めて……」

以前に行った実験に失敗し、亡くなったとされた育ての親を弔ったのを

サーシャはよく覚えている。忘れられるわけがない。


「ワシにもよくわからん。気が付いたら土から這い出とったわい。ガッハッハ!」

豪快に笑うその姿に昔を思い出し、涙がとめどなくあふれ出す。

「う、うぇぇ……おじいちゃぁぁぁぁぁん!」

そして、泣きながら祖父に抱き着いた。


「これ、そんなに泣くでない。」

「だって、だってぇ!」

「しょうがないのう……」

頭を撫でられながら愚図るサーシャ。久しぶりの再会に喜ぶ孫の姿に、祖父も

微笑みを見せながら呟く。



「本当にしょうがない。あんまり泣いていると


――殺してしまうぞ?」



その呟きに耳を疑い、顔を見ようとしたが、それよりも早く両手で首を絞め、

持ち上がられる。


「かっ……はっ……!」

「言う事を聞かない子はお仕置きじゃ、お仕置きじゃ、お仕置きじゃ。

縊り殺して、喰ってしまおうかの。のぅ?」


さらに力が込められ、息を吸うのもままならない。よく回らない頭でサーシャが

視たのは、口が裂け、頭ごと噛み砕こうとするガーゴイルの姿。

あまりの出来事にもがくのも忘れ、そのまま首を食いちぎられるのを待つのみ。



「はぁっ!」


飛び込んできたアリアが斬りつけるが、後ろに避けられてしまう。

その際、サーシャの足元に魔法陣が展開され、スターナの元へと転移させられる。

「サーシャちゃん、大丈夫!?」

「げほっ、げほっ!……お、じいちゃん?」


視線の先にいる祖父と慕った男の姿は先ほどと違い、体は腐り、裂けた口から

だらしなく舌が伸び、涎を垂れ流している。

「ク……クケ……クケケケケケケ!」

ガーゴイルは狂ったように笑い出し、辺りに木霊した。


「嫌……」

「サーシャちゃん?」

「嫌……嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

笑い続ける姿に、耐えきれなくなったサーシャが泣き叫ぶ。


「落ち着いて!もう大丈夫だから!」

「嫌ぁ!やだぁ!おじいちゃん!おじいちゃん!!」

「スターナさん、一旦退きましょう!」

アリアの判断にスターナが転移魔法で跳ぼうとしたが、魔法陣が展開した瞬間、

かき消えていった。


「え!?」

「そんな、何で!?」

初めての転移魔法失敗に、スターナも動揺を隠せない。そこに近付いてくる足音。

いまだ泣き叫ぶサーシャを必死で抑えながら、アリアとスターナは足音の

方を確認する。


「貴方は……」

「やあ、どうだった?信じてた者に裏切られる気分は?絶望したかい?」

サベルを助けた、謎の人物――エーディが姿を見せた。

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