第272話 報告

「そうですか、そんな事が……」

「でも、とりあえずは一件落着ね~。リザードマンのみんなが街に攻め入る

前に止められたし、人質は無事助け出せたし、首謀者は倒したし……」

今はスターナがナデュに事件の詳細を報告している最中だ。だが肝心な

ところはぼかしてある。サベルの死に様についてだ。

それを詳しく話すと、いつか森で見た魔鉱石の話もしなければいけないし、

ややこしくなって混乱するだろう。


「やはりスターナ様はさすがですね。いつもこれくらい、ちゃんとして

頂けるとありがたいんですけど。」

「もっと素直に褒めくれると嬉しいんだけれど。それにワタシだけで出来た事

じゃないわ~。ね、勇者ちゃん。」

いや、そこで俺を呼ばなくていい……ほら見ろ。ナデュが恨めしそうに、

こっちを見てるだろ。


錆び付いた機械のように、カクカクと頭を動かしながらこっちに何とか顔を

向けたナデュが礼を言う。

「アリガトウゴザイマス。サスガ、デスネ。」

「……礼はいいから、お前はスターナと喋ってろ。」

物凄い顔に力を入れながら喋っているから、片言になってるのは気付いて

ないのか、わざとなのか。


「もう、どうしちゃったの?人に失礼な事をする子じゃなかったでしょ?」

「知りません!ふん!」

拗ねた。


「拗ねたわね。」

「拗ねたである。」

「拗ねてますね。」

「あらら、拗ねちゃった。」

スターナと俺以外の全員から指摘され、顔を赤くしながらもそっぽを

向いている。


「拗ねてる……どうして?」

「そんなんじゃありません!」

「ん~……じゃあ、はい。いい子いい子~。」

機嫌を直そうとしたのか、テーブルを挟んで反対に座っていたナデュの

ところまでいって抱き着き、頭を撫でている。


「止め、止めてください!恥ずかしいじゃないですか!」

そう言いながらも、本気で抵抗していない様にも見えるのは、やはり

スターナ恋しさからか。





「え~……コホン、調べ物をしたいというのであれば、やはり図書室かと

思ったので、申請は済ませておきました。明日以降であれば、これを

提示すれば入らせてくれると思います。それに、この塔に入る時も

同様にして頂ければ、僕がいなくても立ち入れます。」

そうして紐に模様が描かれた鉄板を渡された。どうみても模様だが、

入れる場所や期限を記しているらしい。


「ありがとう、助かるわ~。」

「約束ですからね。あ、では僕はもう行かないと」

そう告げ、ナデュは立ち上がり歩き出す。が、俺の側を通る時に、

「僕は認めてないから……」

と言って速度を上げて去っていった。勘弁してほしい。


「ごめんね、悪い子じゃないんだけど~。」

「……はぁ。」

無駄な気苦労が多いな、まったく。まぁとりあえず宿に戻って、

明日から調べ物をするか。

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