第253話 国王リヴォ

「うわ、何だコレ!?何が起こったんだ!?」

「酷い……神聖な場所を、こんな……」

「……おい、あそこにいるのって精霊王様達じゃないか?」

「他のは……アデント様にリュリュ様?と……」

入ってきたのは王都の住人。確かこの場所には入れない様になっていると

聞いたはずだが、どうなってる?もしかして、詐欺師の母親が?


混乱するこの空間に、太く響く声が発せられた。

「皆の者、静まれ。」

声を聞いたヤツは全員黙り、道を開けるように横に並び、頭を下げる。

そこを杖を鳴らしながら通るハイエルフが一人、それに四属性の精霊が左右を

固めて、こちらに歩いてくる。

俺の周りも似たように頭を下げ、俺とサーシャ、クズと精霊王達くらいしか

普通にしていない。


俺達の数m前まで歩いて来ると、スターナが挨拶を述べる。

「リヴォ様、ご機嫌麗しゅうございます。」

「そちもな。」

態度から察するに、こいつが現国王ってところだろうな。


「ち、父上!」

「人前では陛下と呼べと言ったはずだ。」

「そんな事、どうでもいい!今すぐにコイツらを殺してくれ!コイツラは

僕を殺そうとしたんだ、ホラ!」

そう言って斬られた腕を掲げるように見せると、国王ではなく他の連中が、

「何という事を!」だの「ひっ捕らえろ!」だのと騒ぎ出したが、国王が

杖を打ち鳴らすと、すぐに収まった。


「そこの者、何故このような真似をした?」

多分、俺を見てるっていう事は、俺に対する質問でいいよな?

「知るか。」


瞬間、物凄い怒号や罵声が飛んできた。

「ゆ、勇者殿ぉ!?」

「兄ちゃん、いくら何でもマズいって!」

脳筋とフィルは慌てふためいて、ゲイル達が震えてるし、ウンディーネが

オロオロして、他の精霊王達は爆笑してる。ついでにスターナも。

何かおかしい事でもあったか?


場は大混乱だが、国王が先ほどよりも響く押し付けるような声で

「静まれ!」

と発すると、またも静かになる。さすがにクズとは違って威厳に満ちているな。


「知るか、とは?」

「そいつが、俺達の仲間を殺そうとした。売られたケンカを買っただけだ。」

「腕を斬るような大怪我をしているように見えるが?」

「殺そうとしたんだ。腕を斬られたくらいで、文句を付けるな。」

手を顎に添えて、考え込む国王。


「リュリュよ。」

「はい。」

次は詐欺師に質問が飛んできた。


「次の巫女であるお前には、アデントを守る義務があったはずだが?」

「残念ですが、それは出来ませんでした。アデント様が私も殺そうとしたため。」

それを聞いて、外野が困惑の声を上げる。


「リュリュ、あれは違うんだ!」

「いいえ、何も違いありません。」

「僕は君を愛してる!」

このクズ、何を言い出した?

「愛してる人を本当に殺そうなんて思う訳ないじゃないか!あれは演技だよ!」

クズなりの必死の言い訳でいいのか?無理がありすぎて通じるわけないが。


「だからリュリュ!君からも父上に「うるっさいわね!」……リュリュ?」

あまりのみっともなさに切れたのか、リュリュが大声でクズの台詞を

さえぎった。


「陛下。」

「何だ?」

詐欺師は思いっきり息を吸い込んで、覚悟を決めたように切り出した。


「私、リュリュ・ヴェルグラディアは只今を持って、巫女としての役目を

放棄します。」

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