第246話 アデントを止めろ

「う……」

リュリュは気が付いて辺りを見回してみると、ハイエルフ達も同様に

吹き飛んでいたが、サーシャ、ゲイル、バーバラ、クゥの四人は

無事だった。

「あ、あはは……私の、ベルの扱い、も上手いもんじゃ、ない……」

ほとんどのMPをベルによる攻撃に回してしまったため、回復できなくなって

いたので、ゆったりとした動きで立ち上がり、四人に近付いていく。


「お前……」

ビクりと肩を震わせて、その声のした方向に目をやると、確かに吹き飛んで

いたが、ほとんど無傷のアデントが立っていた。

四人がいた方向で手加減したのと、周りのハイエルフが全力で風や水、土の

障壁を張ったおかげで、威力が相当に弱まったせいだ。


「ぼ、僕にケガを……!許せない、許せない!」

右手を前に突き出すように構えるアデントの先にはサーシャ達。

「な!?」

「人が優しくしてやってりゃあ、調子に乗りやがって!そんなに大事なら、

先にそいつらを殺してやるよ!」

その狂った行動に焦り、ベルを手に取るがMPがない事を思い出し、他に何か

ないかと探して、手にしたのは神鉱石で作ったナイフ。それを思いっきり

投げつけた。


計算では魔法が発動して、四人を圧死させる気でいたが、アデントに向かって

飛んだナイフは、魔法を切り裂きながら、手の平にささる。

「がっ!」

思ったよりも鋭い痛みに怯み、急いでナイフを引き抜き、地面に叩きつける。

「何なんだよ、クソが!魔法を切り裂くナイフなんて聞いた事がないぞ!?

ちくしょう、痛い!痛いだろうがぁ!」

誰に顔を向けるでもなく、叫びだすアデントに飛びついてどうにかしようと

するが、さすがに体格差がありすぎて払いのけられるだけに終わる。


「もういい!全員殺してやる!」

「はぁっ……はぁっ……」

息も荒く立とうとするリュリュだが、それより先に影が自分に落ちてくるのに

気が付いた。数秒後には、虫けらのごとく踏みつぶされた自分を想像して、

リュリュの目の前は真っ白になり、頭の中がクリアになるとともにこう思った。


”最後にみんなに会いたかったな。それに、こんな事になるなら駄々こねてでも、

お母さんにヴィヨル作ってもらえば良かった。”






「おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!」

誰かの叫び声とともに、入り口を塞いでいたはずの魔鉱石で作られた扉が

今までに聞いた事がないような爆音が響き、吹き飛んだ。


「リュリュさん、大丈夫ですか!?」

「助けに来たよ!」

少し遠めにいるからか、リュリュを上手く見えてないらしく、位置を確認

するように声を上げるアリアとフィル。

「い、一体何なんだよぉ!」

その出来事に驚いて声を上げるアデントを助けに来た四人が一斉に見る。

そして次哉が少しだけ前に出る。


「よくも、やってくれたな。覚悟はいいか?」

発した声は、そこまで大きくないはずだったが、静まり返った空間に不思議と

よく響いた。

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