第245話 アデントという男

「サ、サーシャ!」

慌てて近くに寄ろうとしたリュリュだったが、周りの親衛隊に手を向けられて

動きを止められる。

ハイエルフはエルフの上位種と言われており、大陸全体を見てもこれほど魔法の

扱いに長けた種族もいない。それは、ただ手を向けているだけに見えるが、

超高速の詠唱を済ませて、風でリュリュを地面に縫い付けていた。


「アデント!その四人に何をしたの、答えなさい!」

「こっわいなぁ。そんなに怖い顔してちゃ美人が台無しだよ?」

「アデントォ!!」

リュリュの怒声を無視して、四人に近づいていくアデント。


「まず、こっちの三匹・・だけどね。サーカスという名目で保護動物を

殺したり、人に危害を加えようとしたのさ。んで、こっちは牢屋に放り込んでた

それらを逃がそうとした。重罪だよね。」

言い終わると同時、あと数歩のところで立ち止まる。

「リュリュってさぁ……どうしてそうなっちゃったの?」

振り向いた眼は、疑問に満ちていた。


「僕らはさ、選ばれた種族なんだよ?このガングルフ王国は、歴代ハイエルフの

王によって収められて平和そのものだけど、他の国を見てみてよ。王になる種族

が変わり、不必要な戦争を起こして民に血を流させる。くっだらないよね。

特に魔族や獣人は血の気が多いし、こんな半端・・なのまで生まれる始末。」

台詞とともにサーシャを一瞥する。


「だからさ、こういうヤツらは死んだ方がいいんじゃないかな?って思うんだけど

リュリュって、やけに他の種族の肩を持つよね。僕には意味がわからないんだ。

だから、さ……一回経験した方がいいんじゃないかと思って。」

アデントが片手を上げると、リュリュの体が解放され、親衛隊の一人が目の前に

妖精用のナイフを放り投げてきた。


「ほら、よく狙って。」

「うぁ……」

アデントは強引にサーシャの髪を引っ張り上げ、意識がないであろうに口から

苦悶の声が漏れる。


「一度殺したら後は特に問題ないはずだから。やっぱり殺し合いする時より

無抵抗の相手を殺した方がスッキリするもんだよね。上手く殺せたら、さっき

僕に無礼な態度を取った事は、水に流してあげるよ。」

朗らかに笑う声が空間に響き渡り、リュリュはナイフを拾い歩き出す。一歩一歩と

近づいていく姿に、頬が緩むのが止められないアデント。この男は儀式・・さえ

終わればリュリュが最良の妻となると信じて疑わない。それに面白いショーを

最前列で見る事が出来る。

それが、この男の本性だった。


歩いていたリュリュが空を飛び、勢いを付けようとしている。唾を飲み込み

血がまき散らされる瞬間を楽しそうに待っていると、リュリュが呟く。

「……に……よ。」

「え、何?聞こえないよ?」

返事をするアデントに構わず、全速力で飛ぶリュリュ。




「サーシャに汚い手で触ってんじゃないわよよおおおぉぉぉぉ!」



目指す先はサーシャではなく、アデント。アデントは少し驚いた表情を見せる

ものの、親衛隊によって先ほどと同じく地面に叩きつけられるリュリュ。

「あぐぅぅっ!」

「……はぁ、やれやれ残念だよ。」

リュリュがやらないなら自分で。それでも目の前で死ねば、意識が変わるはず。

そう思い、手を顔の前にかざすが、

「や、らせ、るかぁ……!」

先ほどと同じ力で押さえつけられてるが、信じられないほどの力で、リュリュが

服の内側からベルを取り出し、一つ鳴らす。


チリィン……


澄んだ音が鳴って後、突然の轟音が辺りを覆った。

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