第240話 リュリュの葛藤
「あ~、も~!ムカつくったら、ありゃしないわ!」
リュリュは、自分にあてがわれた部屋で、枕を片手に大暴れしている。
壁に投げたり、殴ったりしているせいで、シーツはぐしゃぐしゃに
なっているが、物が倒れたり、壊れたりしていない分、理性は保って
いるのだろう。
アデントとともに家族のところに顔を出したリュリュに、
「アデント様に迷惑をかけるものではありません。」
「皆さんに心配をおかけしないでください。」
と怒られたが、それすら気に食わない。
ほとんど一般家庭扱いで暮らしてきたリュリュにとって、急に神輿に
担がれるのも嫌いだったし、両親や祖父母と話すときは敬語を使い、
堅苦しく顔合わせしなければいけない状況は、さらに嫌いだった。
前と同じように暮らそうとしても、巫女になるべき人はもっとしっかりした
生活を過ごさなければダメだの、好物のヴィヨルを作って欲しいと、母に
お願いしたら、あんな粗末な物を口に入れるもんじゃないと言われた。
「巫女だなんて言われても、納得できるわけないでしょうに!」
蹴られた枕が壁に当たる。
周りが言ってる事に、理解できなくもない言い分はある。
皆の模範にならなければいけない、巫女たるものはやましい行いをすべきでは
ない、確かに筋は通っているが、それはリュリュにとって耐え難かった。
結果、この国から出て行くと決めた。
「はぁ、はぁ……」
一通り暴れて、息も絶え絶えのまま、ベッドに腰かける。そして、先ほど
アデントに問いかけられた時に、反論できなかった自分を思い出す。
「本当に……馬鹿みたい。私も……」
そのまま力なく横たわり、呟く。
「これから、どうしましょう?」
「一旦、宿に戻るとしましょうか~。」
神殿を出た俺達は、スターナの提案で宿に戻る事にした。
その最中も街の連中は俺達を見て、ヒソヒソと話を続ける。
「嫌な感じね~。」
「だろうな。」
俺はさっきからぐずついてるサーシャを抱きかかつつ、詐欺師からの話を
思い出して、言葉を返す。
この国はどうやら、他の国の種族を見下す傾向にあるらしい。特に魔族や獣人は。
詐欺師がいなくなったから、それが余計に酷くなったんだろう。
ドワーフはあまり王都に来ないらしいしな。
俺達が今まで行った場所で、そういう事に出会わなかったのは、中心部から
ほど遠い場所だったかららしい。
そうなると自然と他の国との交流があるから、そういう意識はなくなるらしいが、
国の、特に王都に近付くにつれて、悪化していくと。
「そういえば、アデント様がお礼してくれるって言ってたけど、何だろうね?」
「美味しいモノでもご馳走してくれるんでしょうか?」
脳筋とフィルの明るさはこういう時にありがたい。この二人がいなかったら
雰囲気が暗いままだったろうからな。
そうして俺達は宿へと戻った。
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