第232話 剣

二人の父親は正直言って小柄なドワーフの中でも小さく、他のドワーフより

腕や足も細いため、筋肉が無いように見える。

それが歳のせいなのか、そういう体格なのかはわからなかったが、少しだけ

不安な面もあった。そこに実力は比例しないと思うが、頼りなく思えて

しまうのだ。

だが、それは誤りだった。


「イフリート様。ワシのような老いぼれが、このような機会を与えて頂き、

感謝します。」

《うむ。》

「ワシも久々に血が滾ってしまいましてな。なので本気で行かせて

もらおうかと思います。」

そういうと、上に着ていた服を脱ぎ、横に投げ捨てる。

その体は、お世辞にも良い体格をしているとは言いづらく、前に出っ張った

胸や腹の肉。固太りにしても、もう少し引き締まってると言いたくなりそうな

ものであったが、呼吸を整え始めると一変した。


「かはあぁぁぁぁぁ……」

息を深く吐く、吸うを繰り返すたびに体の内側から、まるで鉄パイプでも

入れてるのか?と疑いたくなるほど太い筋肉が浮かび上がり、血管は脈打つ

のが分かるほど張りつめていた。

そこにいたのは小柄なドワーフではなく、物語に出てくるような鬼とでも

いうべき存在になった男だった。


《ほぅ、素晴らしいな。》

「では……行きますぞおおおおおぉぉぉぉぉ!」

そこからは神鉱石を叩く、叩く、叩く、叩く、叩く、叩く、叩く、叩く……

目にもとまらぬ速さで神鉱石を叩き続ける鬼。しかも形を整えるよう、

微細な調整もこなしながら。


「凄いである……」

「兄貴の才能はピカ一だけど、親父には勝てないからね。本当はもう

引退して、やったとしても細工物くらいだったんだけど、ありゃドワーフの

魂に火が付いたね。」

それからしばらくは、その光景を眺めていた。が、暑さにやられそうになり、

その場を離れようとした時だった。


「ふぅ……」

突然叩くのを止め、横にある鉄桶に汲まれた水にゆっくりと浸していく。

だが、水が沸騰するためか、数個用意してあるので順番に浸していって

様子を見ている。


「うむ、これは大体完成じゃのぉ。」

その言葉を吐くと同時、体に溜まっていた空気も一緒に抜くように筋肉が

戻っていった。その手に持っていたのは一振りの剣になる基礎。


「出来たのか?」

「お客人、いつの間に戻って来られたんじゃ?」

《おぉ!主らはいつぞやの!》

俺が二人に近付くと、向こうもこちらに気付き、一人は疑問で、一人は喜びの

声を上げて迎えられた。


《あれは良くやった!褒美として約束を守ってやったぞ!》

「あぁ。」

そうじゃないと困るしな。

「それはそうと、ほれ。どうじゃ?」

その言葉とともに渡されたのは、一振りの剣の基礎。他の材料を継ぐと、

神鉱石の硬さに耐えられず折れる可能性があるために、刀身から柄頭までを

一体化させたそうだ。これに鍔や握り、柄頭を付けていくという。




――出来上がったばかりの剣は、薄く青色に煌いていた。

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