第228話 後は戻るだけ

「じゃあ、二人を見た人間が大騒ぎするのを恐れて隠れてたって訳か?」

《それもあるけど、ウンディーネちゃんってば人見知りなの。》

《うぅ……ごめんね、オンディーヌちゃん。》

片一方がもう一方に抱き着き、頭を撫でられている。外見や声に違いはないので、

喋り方や名前で判断しなければいけないのは面倒くさいな。


《だから、いっそ人に見つからないようにしちゃえって森の中をいじくるの

大変だったんだから。》

は?


「ちょっと待て、いじくる?」

《そうだよ。この泉まで一本道だったから、土の中の水分を動かして、道から

逸らさせたり、見えにくくするように木を密集させたり……》

コイツらが原因かよ!


「そんな事したら、おかしいと思った人が、森中を探索しそうである。」

《……あ。》

あ、じゃない。


《せっかく、昨日完成したのに~!》

もしかして、途中で寝てたのは疲れてたからか?

「それに人に会いたくなければ、オンディーヌの方が人前に出れば

いいだけじゃないか?」

《へ?でも呼び出されるし……》

「いや、それでオンディーヌの方だけ出ればいいだろ?それに最悪、出なくても

いいらしいしな。」

《……そうね。》

間が抜けすぎだろ。


「それより頼み事があるんだが。」

《何?》

「ノームが新しい宝石を作るのに、綺麗な水が欲しいと言ってるんだが、

貰えないか?」

《ノームが?》

俺は今までの経緯をざっとではあるが、説明した。


《つまりイフリートがシルフとデートするために、ノームの宝石が欲しいから

綺麗な水を頂戴って?》

「そうだな。」

復唱されたのを聞いてて馬鹿らしくなってきたが、今さら言わないでおこう。


《ん~……ま、いっか。その代わり、この事は秘密ね。》

「恩に着る。」

そう言って、用意したビンに精製した水を入れてもらった。その水は何と言えば

いいのか、ただの透き通った水のはずだが、それだけで不思議と美しく感じた。


「さて、行くぞ。」

「え~……嘘でしょ~……?私が教わってきたことが……」

さっきから影の薄かった詐欺師は、地面にうずくまってる。そんなにショック

だったのか?


「リュリュ。」

「ふぉっ!?」

「行くである。」

「あ、あぁはいはい。」

力なく飛んで来たが、何でそんなに疲れてるのかが分からなかった。





俺達が三人の元に戻る頃には、すっかり暗くなっていた。

「勇者殿!」

「待たせたな。」

「兄ちゃん、大丈夫だった?」

「問題ない。水も貰ったしな。」

そう言って、水が入った容器と紙片をハリネズミの前に差し出す。

ふと、どうやって持って行くのかと気になっていたが、ハリネズミが

不意に立ち上がり、ビンを前足に抱え、紙を口で咥えて、二本足でダッシュ

していった。

「……ここまで四足歩行だったのは何でだ?」

あっけにとられた俺の口から、自分でもよく分からないセリフが飛び出した。


後姿をしばらく見つめた後、どこで野宿するかという話になり、この森は

ウンディーネに守られているから、下手に外に出るよりは安全と、

森の中で一夜を過ごす事にした。

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