第218話 森を抜ける

俺達が村に戻ると、深夜に関わらず全員起きていた。

「勇者ちゃん、大丈夫?」

「あぁ。」

「一体、何があったんですか?」


俺はスプリガンの襲撃について、話せる事だけは先ほどよりも詳しく話した。

魔鉱石の件は言わずもがなだ。

フィルとリヴィも、特に口を挟むことなく聞いていた。

「なんでアンタは、スプリガンが攻めてくる事が分かったの?」

「何となくだ。」

「……誤魔化すのすら面倒くさくなってんじゃないわよ。」

言うに言えないんだから、しょうがないだろ。


「でも、チュニャに怪我が無くて良かったである。」

サーシャはそう言って、手を握ってきた。

「数は多かったが、弱かったしな。問題ない。」

「アンタにかかれば、そりゃ弱いんでしょうよ。」

詐欺師に呆れた顔で見られた。腹が立つ。


「それにしても凄かったわよ。やたらデカいヤツがいたんだけど、一撃で

倒しちゃったし。まぁそれでもドラゴンと殴り合いしたとかは、嘘にしちゃ

盛り過ぎじゃない?」

リヴィがフィルを見て言う。


「本当ですよ。」

「本当よ。」

「本当である。」

「本当よ~。」

「……え?」

俺を見るな。


スプリガンの騒ぎは一旦落ち着き、俺達は宿屋に戻り寝直す事にした。

そして翌朝。

「おはようございます!!」

脳筋の大声に頭を揺さぶられながら、起きて準備をする。


「おはようございます。」

宿を出たところで声を掛けてきたのは村長だった。

「昨日はヘリオだけでなく、村の危機まで救って頂き、何とお礼を言ったら

いいか……」

「偶然が重なっただけだ。」

「それでも恩人には報いませんと。ぜひ、また森にお立ち寄りください。

シルフ様がいる山のエルフに話せば、村に案内させますので。」

あの厳ついエルフ達か。


「まぁ気が向いたらな。」

「お待ちしておりますぞ。」

そうして俺達は村を後にした。




「さて、ここら辺でいいかしらね。」

転移結界を使って、森の出口近くまで跳び、その後の道案内はリヴィに

してもらった。

「悪いな。」

「ま、礼替わりよ。」

「そうか。じゃあ、俺達は行くぞ。」

ノームのところに向かおうとしたが、呼び止められた。


「ちょっと待って。」

「何だ?」

「!」

俺が振り向くと、何故か脳筋が間に挟まれるように立ちはだかった。


「……何してるんだお前?」

「いや、もう何ていうか……女の勘です。」

コイツが何を言ってるのか、理解に苦しむ。


「私も何してるかわかんないけど……まぁいいわ。はい、これ。」

手渡されたのは、見た目が綺麗な石だった。

「これは?」

「ヘリオから。あの子の宝物だったみたいだけど、渡して欲しいって頼まれたの。」

普通の石に見えるが。


「あの子、石集めが趣味なのよ。貴重な物じゃないけど貰ってあげてくれる?」

「そうだな。そういう事なら頂いておく。」

そうして道具袋の中にしまい、今度こそノームの住むところに向かう。





「リヴィ姉ちゃん。」

「ひぃあ!?」

後ろから掛けられた声に驚き振り向くと、ヘリオがいた。


「素直じゃないんだから。もっと正直に渡せば――いだだだだだだ!」

赤い顔をしたリヴィに、頬を両側に引っ張られて涙目になるヘリオ。

「うるさいわね!この!」

次哉に渡した石は頼まれたものではなかった。

同じ色の石を分け合った者同士は、いつか結ばれるという、エルフの若い女性の

間で流行っている、おまじないを信じたリヴィからの贈り物だった。

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