第211話 山を後にしよう

「とりあえず、一旦外に出るか。」

「そうしましょうか~。じゃあ勇者ちゃん、ハイ。」

スターナがこっちに向かって両手を広げてくる。


「……何だ?」

「抱っこ。」

「ちょっと待ってください!」

脳筋が割り込んできた。


「スターナさんは、さっきしてもらったじゃないですか!というか、何か

雰囲気がアレなんですけど、どうしてですか!」

「それは、ワタシも勇者ちゃんに予約してもらったからかしら。」

「なっ!?」

こちらを振り返る脳筋。


「勇者殿!?」

「いや、あのな……」

「だって、後で考えてくれるって言ってくれたもの♪」

火に油を注ぐな。


「そうやって浮気ばかりして!もう!」

「浮気ってな……」

そうするとサーシャが袖を引っ張ってきた。

「我が輩も抱っこ。」

そういうとジャンプして胸に飛び込んできた。


「あらあら、先を越されちゃったわね~。」

「う~……」

さすがにサーシャ相手だと、そこまで強く言えない脳筋が唸ってる。


「ドゥギャ。」

「なんだ?」

詐欺師が深刻な顔をして近寄ってきた。

「後ろから刺されないよう気を付けなさいね。」

「刺されてたまるか。」



俺はサーシャを抱え、螺旋階段を上って外に出た。

螺旋階段の方は段数もそこまで多くなかったため、スターナの体力が減る事も

なかった。

「ノームだったか。これから、そいつが現れるところに向かうとして十日か。」

「そうだね。五日ほど行ったところにある森を突っ切って、さらに五日くらいで

岩山に出るんだ。そのど真ん中にデカい大穴が開いてて、そこで道具を使うと

出てきてくれるかもっていう感じだね。」

今のところ、出て来ないっていう事が無いのが救いか。

最後に山を下りるが、上りほど体力を消耗しないようで、スターナも普通に

下りて来れた。


麓に着いた頃には少し小腹が空いたため、屋台で食事を取る事にした。

「らっしゃい!」

「これは何だ?」

近くの屋台で売っている物を見ると、底が深めになっている器に肉と野菜を盛り、

汁を入れられていた。


「これはアウア鳥の葉野菜煮込みになります。」

「アウア鳥ってのはどういうヤツなんだ?」

「それでしたら、ほらあそこ。」

少し遠くの上空を指さしたので、見てみると大きな鳥が飛んでいた。

「アレです。」

「……」

現地調達してるとは思わなかった。


「思ったより濃いな。」

この世界での野菜の役割は、味をサッパリさせるためにあると思っていたが、

アウア鳥の肉自体の味が元々濃いらしく、汁物にした理由が、単独で食べるには

キツ過ぎるからだろうと予測した。だが、味自体はマズいわけではないので

最後まで食べる事ができた。


「さて、腹もいっぱいになったし、まずは森とやらを目指すか。」

「じゃあ、行くである。」

「自分で歩いてくれ……」

また、サーシャが飛び乗ろうとしてきたので、歩いてもらうように言うと、

残念そうな顔をしながら、言う事を聞いてくれた。


「何か、急に大変になったわね。そっち方面で。」

「勘弁してほしい……」

詐欺師の言葉に本音が少し漏れ出てしまった。

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