第209話 シルフに会う

「ふぅ……ふぅ……」

「あの、スターナさん……」

「だ、大丈……ぶ……」

こういう時こそ、転移魔法で移動しようとしたのだが、周りにいた登山客に

さすがに頂上行くのに魔法を使ったら、バチ当たりだと言われて、仕方なく

階段を上っている。

確かイフリートのいる洞窟から出る時も、同じような感じだった気がする。


「あまり大丈夫には見えないわよ。」

「で、でも……迷惑……ふぅ……かけられない……」

「無理しないで休むである。」

と他のメンバーから休憩を取った方がいいと提案されるが、休めるような

場所が見当たらない。


「一度上り始めたら頂上に着くまで、休める場所がないんだ。」

「そうか。」

休める場所もない、転移魔法も使えない、だがスターナの体力も心配で

ステータスを見ると……


HP:105


……ほんの少しだが、減ってる。他に方法がないし、しょうがない。

「スターナ。」

「な、何かしら、勇者ちゃ――きゃっ!」

俺はスターナを抱きかかえた。


「ゆ、勇者ちゃん……えっと、あの?」

「何かあっても困るしな。」

「……じゃあ、お願いしちゃおうかしら。」

そのまま階段の続きを上り始める。


「ふふっ、勇者ちゃんにお姫様抱っこ♪」

「お、おい、頬を撫でるな。」

「え?ん~じゃあ、えいっ♪」

「擦り寄るな、じっとしててくれ……」

スターナは腕の中で、もぞもぞと動き回るが、手を離す事も出来ないので、

止めて欲しい。


「何かイチャイチャしてる……あれ、絶対に何かありましたよね……」

「いや、まぁ、詳しくは知らないけど、アンタも……ね。」

「我が輩も後で抱っこしてもらうである。」

「モテモテで羨ましい限りだね。」

後ろからの声は聞かない事にしておく。




階段を上り続け、頂上に着くと列ができていた。

「は~い。観光客の方はこちらっすよ~。」

……どうやらシルフの現れる洞穴は、観光名所扱いらしい。


「ずいぶんな扱いね……」

「シルフ様は気さくな方だからね。会いたい人には気軽に会ってくれるし。」

一応は種族の頂点にいる者として、それはどうだろう?と思ったが、いまだ

降りる様子を見せないスターナを見て思った。

"あぁ、異世界の王だしな。"と。


「勇者ちゃん、失礼な事を考えてないかしら?」

「気にするな。それよりも降りろ。」

「否定はしないのね……傷付いちゃうわ……」

そう言って頬を膨らませ、渋々といった感じで地面に足を付ける。


「とりあえず私達も並んだ方がいいわよね?」

「そうであるね。」

俺達は、そこまで長くはない列の最後尾に立ち、中に入る順番を待つ事にした。

そして十数分後、順番が回ってきた。


「では、どうぞ~。」

洞穴の中に入ると、数十m進んだところで、下に続く石の螺旋階段があった。

下までは同じく結構な深さがあり、真ん中には光が差して、幻想的な風景が

広がる。


最深部に降り立った後、早速【風精霊の吐息】をフィルに使ってもらうと、

すぐに風が逆巻き、体の色が薄い女性の姿を形作る。そして、

《呼ばれて飛び出ちゃって、はいは~い。あーしに何か用?》

……この時点で嫌な予感しかしなかった。

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