第204話 思いっきりぶん殴る

「な、どうなってやがる!?」

段々と小さくなる猿を見て、驚いているデカブツ。

「ウギャー!」「ギィー!ギィー!」

何かを叫んでるが、猿の言葉なんぞ理解できないし、コイツ等の言葉なんぞ

理解したくもない。


そしてついに猿の姿が溶けてなくなり、水精霊が倒れこんだ。

そこに走っていくスターナとフィル。あの二人に任せておけば問題ないか。

「よぉ。」

「ひっ!」


さっきから殴られても、ろくにダメージすらなく平然としている姿に恐怖を

覚えたのか、酷く怯えてるように見える。

「へ、へへっ……ちょいとからかっただけじゃねぇか。そ、そんな怖い顔

すんなよ。」


俺は無言で近寄ると逃げようとする。が、

「させないわよ。」

「ギャオッ!」

スターナの魔法で状態異常【麻痺】にかけられて、動けなくなるデカブツ。


「勇者殿、私が殺っても……?」

いつの間にか後ろにいた脳筋がぼそりと呟いたが、手で制して止める。

「ま、まで……!あれだ、だのまれだんだ!」

俺はどんどんと近付いていく。

「ゆうじゃ、ごろずだめの、ぢがらをぐれでやるがらっで!」

命乞いなのか、麻痺しているにも関わらず、デカブツは必死で叫ぶ。

「ざ、ざべるっでやづ!ぞいづが!」


そして俺はついに目の前に立った。

「俺はお前と違って陰湿じゃないからな。一発ぶん殴るだけで済ませてやる。」

少しだけホッとした顔をするデカブツ。自分に比べたら体も小さい人間に

殴られても、どうという事はないと思っているんだろう。


右の拳を握りこんで力を入れ、肩より後ろに引く。

「じゃあな。」

思いっきり踏み込み、拳を前に突き出す。

ガラスのような音が辺りに響き渡り、巨大な氷の猿は数千、数万もの欠片に

なって散らばっていった。


「ふぅ……」

正直に言えば殴り足りないが、約束通りに一発で済ませてやるしかないな。

もう殴るところもないし。


「勇者ど「デュクワァ!」」

アイスエイプを全滅させた後、サーシャが飛び込んできた。

「ご、ごめんなざ……!」

サーシャは涙を零して嗚咽していたため、まともに喋れなくなっていた。


「どうした?」

「だっで!わ、我が輩のぜいで……」

「何が言いたいのか分からん。そうだサーシャ。」

その言葉に体をビクッと震わせ、目を俯かせる。


「あの薬、氷を溶かすのか。サーシャの機転のおかげで助かった。」

「……え?」

「あの薬が無かったら、人質を助けられなかった。ありがとう。」

その言葉に、サーシャは目を丸くした。


「でも、だって……あれのせいで殴られて……」

「効かなかったし問題ない。」

「う、うぇっ……ひっく……」

俺は、しゃくり上げる声が聞こえなくなるまで、そのまま抱きかかえていた。


「私も……いや、う~……でも、今回は……特別ですからね?」

幻聴が聞こえた気がするが無視だな。



「それにしても、暑くなってきたな……」

やはり、先ほどのアイスエイプが寒さの原因だったらしく、気温が元に

戻ってきた。こうなると防寒対策が裏目に出てしまい、暑い上に荷物が

増えてしまった。

「あの猿は、ろくな事しない……いや、サベルのせいか。」

アイツに全然会ってないというのに、殴りたい衝動とストレスだけが

溜まっていくのはどうしてだろうか?

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