第203話 イラつく猿

「ギャギャギャギャ!」

氷で出来た猿は、俺達を見て笑っていた。


「何だコイツ?」

「アイスエイプ……」

詐欺師がそう呟いたので、振り向いて確認する。


「コイツは周囲の気温を下げる特殊能力があるの。でも、こんな大きさのヤツが

いるなんて、初めて聞いたわ。」

「周囲の気温……だったら、この寒さはコイツが原因か?」

「でも、こんな広範囲で気温を下げるなんて……」

だが、何となくコイツで間違いないという思いがあり、戦闘態勢に入る。


「まぁ、待てよ。」

「うそっ!喋った!?」

詐欺師がさらに驚きの声を上げる。

「ギャギャギャ!俺はアイスエイプの中でも、最も優れているからな。

喋るくらいは訳ねぇんだよ。」

「ア、アイスエイプは魔物に分類されるから、知能が低いもんだとばかり……」

そうか、この世界で魔族と魔物の違いは知能の差だったか。

まぁいい。話が通じるなら交渉の余地があるかもしれん。


「俺達の前に出てきたって事は、用でもあるのか?」

「何、ちぃっとばかし死んでくれって頼みにな。」

前言撤回だ。最初から殺しに来てる相手に交渉も何もないな。


「なら、もういいな?行くぞ。」

剣を鞘から抜き、構える。

「おぉっと、怖ぇな。人質がどうなってもいいのか?」

「……人質?」

そう言うと、人影が四つ。


「ギャギャギャ!」

小さいアイスエイプと、

「あ……ぐ……」「助け……」「お父さ……」

それと体が同化して、凍りかけている水精霊が四人。


「酷い……何でこんな事をするんですか!?」

「いやぁ~、こっちにも事情ってもんがあるんだよ。どうするよ?

俺の命令一つで水精霊どもを殺すように言ってあるしな。あ、ちなみにだが、

あのチビどもを殺すと、水精霊たちも砕けて一緒に死ぬぜ?ギャギャギャ!」

どうする、このままじゃ手が出せない。第一、コイツ等は何が目的だ?

とにかく助ける方法を探さ「……ていっ!」――サーシャ!?


サーシャが投げたビンが、小さいほうのアイスエイプ目掛けて飛んでいき、

蓋が開いて、中の粉が降りかかる。だが……

「ウッキィ……?ギャギャ!」

特に何かが変化した様子はない。それで安心したのか騒ぎ立て始めた。

「サーシャ、今「時間が経てば……」」

それを真剣な目で見るサーシャ。


「なんだぁ?虚仮威こけおどしかよ、ずいぶん舐めた真似してんじゃねぇか!」

デカブツが拳を振り上げ、サーシャを潰そうとしたので、前に出て受け止める。

「……気に食わねぇな、テメェ。」

そう言うと顔に唾をかけられた。

「よし、今からテメェは俺のサンドバッグだ。ガードする事も許さねぇ。

もしガードしたら、その時点で一人ずつ殺す。他のヤツらもう動くんじゃねぇぞ。」





「勇者ちゃん……」

巨大アイスエイプの宣言から十分ほど経った。次哉にダメージは見られないが、

それでも殴り続けられる姿は、他のメンバーに精神的苦痛を与える。


「デュクワ……デュクワぁ……」

考えがありビンを投げたとはいえ、自分のせいで殴られているというのは、

サーシャに耐え難く、涙を流しながら一人と一匹を見つめている。

「大丈夫、大丈夫だから……泣かないで。」

それをリュリュが拭い、慰めている。


「あの猿殺す、あの猿殺す、あの猿殺す、あの猿殺す、あの猿殺す……」

「……」

アリアはブツブツと呟き、それを聞かされているフィルは固まったまま

動けなくなっている。


さらにしばらく経った頃、巨大アイスエイプが吠えた。

「だぁ、クソッタレが……何で死なねぇんだよおおぉぉぉぉ!?」

叩きつけるように次哉の頭に拳を打ち付けるが、まるで効いていないような

素振りに苛立ちを覚えて、さらに力を込める。


すると、後ろで水精霊と同化している小アイスエイプ達が騒いでるのが

聞こえた。

「んだよ!黙りや……がれ……」

目に飛び込んできたのは、小アイスエイプ達が溶けだしている姿だった。

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