第205話 再度、町へ

「そっちは大丈夫か?」

「えぇ。命に別状はないわ~。」

「そうか。」

スターナとフィルが介抱している水精霊達は、衰弱しているものの、

体力が回復すれば、元に戻るらしい。


「じゃあ、この人達を町まで連れて行ってあげましょうか。」

「家に連れて行った方がいいんじゃないか?」

「湖の中に?もしも、また襲われたら助けられるかどうか分からないわ。」

「……そうだったな。」

どうも時々、異世界の常識に混乱する事がある。

いや、水の中に住んでると言われても、頭が理解しきれてないんだろうな。


「じゃあ帰りましょうか~。」

帰りは転移魔法で帰れるから負担は少ないが、人数も増えて大丈夫なんだろうか?

スターナに尋ねると、

「ちょっと時間はかかっちゃうわね~。でも、普通に歩いて帰るよりも早いと

思うし、今の精霊さん達に歩いてもらうのも無理だし、ワタシ頑張っちゃう。」

力こぶを見せるようなポーズをとって、張り切るスターナ。


実際に転移魔法を使って町に戻れたのは、それから五時間後。

一人二人だったら、すんなりと着いていたはずだが、それでも一日と少しの

時間を掛けて辿り着いた道を、大幅に短縮していた。

MPは随時回復しているため減ってはいないが、さすがに集中力が切れたらしい。

「疲れた~……」

と、一言漏らした。


「ありがと、スターナ。」

「じゃあ取りあえず、この人達を休ませた方がいいよね?」

「そうですね。」

そうして宿に向かい、事情を説明して部屋を取る。



「後は宿屋の人に任せていればいいわね~。」

「次はどうするである?」

サーシャは町に着くまで、俺にしがみ付いていたが、さすがにもう泣き止んで

自分で歩いてる。手は未だに握っているが。


「服屋に行きませんか?」

「何しに?」

「それはもちろん預けるためですよ。」

話に聞くと、どうやらこの世界では服屋に着なくなった服を期限付きで

預けられるらしい。最大で約一年で、もしそれまでに取りに来なかった場合は、

バラして他の服の材料にするか、古着として売り出すらしい。

頼めば、自宅まで転送もしてくれるらしい。


どちらにしろ、どうなったかを説明するために行く気ではあったし、丁度いい。

そして向かうと、

「いらっしゃいませ。」

「おう、あん時の。」

都合良い事に兄弟揃って服屋にいた。


「手間が省けたな。」

「それで、ご用件は服を預けにでよろしいでしょうか?」

「まぁこんだけ暖かくなりゃあな。俺も同じだし。」

どうやら弟も服を預けに寄っていたらしい。


「そういや、さっきの手間が省けたってのは?」

「あぁ、水精霊の件だが……」

俺は森の湖畔で起きた出来事を話した。


「でっかいアイスエイプねぇ。でも季節が変わったんじゃねぇかって思うくらい

気温を変えるような化け物、見た事も聞いた事もねぇが……あぁ、いや疑ってる

訳じゃねぇんだがよ。」

「お前はお客さんに失礼な物言いをするんじゃない。」

「気にするな。」

あれは特殊な個体だったらしいからな。一応、喋った事は言っていない。

この世界での魔物の定義やら、頭がおかしい人扱いやら、変な方向に話が

転がるのは想像に難しくない。


魔法屋の男に、水精霊が宿に泊まってると伝え、服を預ける。

荷物が増えるのも面倒だし、そろそろ旅の資金も追加してもらうため、

俺は服とついでに手紙を城に届けるよう頼み、宿に戻った。

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