第195話 次哉の受難 その二
「ふぅ……」
次哉は先程フィルに頭から酒を被せられたため、風呂場に来ていた。
目をつぶり、頭を洗っている時に、戸が開くカラカラという音が聞こえたが、
"誰か来たか"
次哉はそう思っただけで、気にする事もなく洗髪を続ける。
洗い終わり、手探りでポンプのスイッチを押そうとすると、後ろから声を
掛けられた。
「もう終わりでいいのかしら?」
「はぁっ!?」
「じゃあ流すから、じっとしててね~」
「ちょま……!」
言い終わらない内に、スターナが桶を傾け、髪に付いた石鹸を洗い流す。
その間、何も出来ずにされるがままの次哉。
「ぶはっ! な、何でここに!?」
「勇者ちゃんと一緒に入ろうと思って」
「い、今すぐ出て行け!」
「い~や♪」
今度は、次哉が体を洗うために泡立てておいたタオルを手に取り、
背中を撫でるように当ててくる。
「うあっ!?」
「もうっ! いい子なんだから暴れないの!」
その優しい手つき、くすぐったさと恥ずかしさが混じり合い、真っ赤になって
何も言わずに俯く。
抵抗して下手に後ろを向くと、見える可能性があるから、動けないというのが
本音であるらしい。
時々、スターナの柔らかい肌が触れる度に、次哉の体がビクッ! と跳ねるが、
当の本人はまったく気にせず、鼻歌交じりに続ける。
それから天国か地獄か、というような時間を乗り越え、背中にお湯を掛けられた
次哉は、やっと終わったと安堵のため息を吐く。
「じゃあ今度は、前を洗いましょうね~」
ため息が無理やり飲み込まれ、喉の奥から声にならない声が漏れた。
「いや、自分で洗うから!」
「ワガママ言わないの。ほら早く」
それからは必死の抵抗。子供の姿に戻っているため、力は無くなっているはずだが、
意地と羞恥で尋常じゃない力を発揮する。
「頼むから、止め――うわっ!」「きゃっ!」
濡れてる床が仇となり、力を入れて踏ん張っていた足が取られて、次哉は後ろに
ひっくり返る。
その時、背中を打って
「痛ッ!……あ」
「勇者ちゃん、大じょ……う、ぶ……」
痛み自体は強くなかったが、次哉が後ろに倒れ、スターナは膝立ちだったため、
そのすべてが網膜に焼き付く。
それが鮮明に認識できた瞬間、動物としての本能とでもいうべきものが、
反応してしまった。
「うわあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
必死で隠したが、時すでに遅し。スターナに状況が伝わってしまった。
「ゆ、勇者ちゃんも男の子だもの、仕方ないわよ。え~っと……手をどけてね~
はい、綺麗にしましょうね~」
そう言って続けようとするスターナから、必死に体を動かして逃げる。
「いいいい、いいから! 大丈夫だから!」
「ほら、遠慮しないの」
「おま、お前は見慣れてるかもしれんが、俺は慣れてないんだ!」
「そのセリフはちょっと失礼よ~。ワタシもした事ないもの。」
頬を膨らませ、四つん這いになりながら追うスターナ。その際、胸が両腕に挟まれ、
存在を強調しながら迫ってくる。
対する次哉は尻もちを付いたような格好のまま、後ろに逃げていく。
「経験無いヤツが、なんでそんな冷静なんだよ!?」
「だって今は、子供の姿だし。それにワタシは元国王の娘で、今は女王だもの。
あの国なら何でも許されるとはいえ、外聞が悪いでしょ? だから、教育係の子に
教えてもらったの」
「き、教育係?」
「そうよ~。サキュバスのウェンディちゃんに」
「人選、最悪じゃねぇか!」
そうしている内に壁に追い詰められる次哉。
「そ、そういうのは好きな相手にやってやれ!」
「あら、ワタシは勇者ちゃんが好きよ?」
その言葉に一瞬、硬直してる隙に、胸を押し付けられると、人生で感じた事がない
感触と感情が頭の中を埋め尽くす。
「だって勇者ちゃん優しいし、初めて負けた相手だし……」
さらに体を押し込まれ、圧迫感を覚えるが、嫌悪感など無く、むしろ心地よさに
どうにかなりそうな自分を理性と羞恥で抑える次哉。
「ねぇ勇者ちゃん……ワタシもお嫁さんにしてくれる?」
耳元で言われてもギリギリ聞こえるかどうかの、熱い吐息混じりの囁きが、
理性を奪いかけるが、
「後、後で考えるから!」
その言葉を聞いたスターナは微笑んで、
「ふふっ、そうね~。じゃあ後で楽しみにしてるから……ね?」
言い終わった後に、スターナの力が緩んだのを感じると、脱衣所へと走り出した。
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