第192話 ネスノ町
俺達は扉を開けた先の階段を上っていた。
「ふぅ、ふぅ……思ったよりもキツイわね~……」
「スターナさん、大丈夫ですか?」
「え、えぇ……」
スターナも平坦な道であれば、ある程度の距離を歩けるようになったが、
階段を上るのは辛いらしく、速度が遅くなっている。
「それにしても、どこまで続くんだろうね?」
「普通に考えたら、私たちがドラゴンに落とされた距離分を上れば、
地上には出るはずだけど。」
その階段をずっと上っていくと、開けた場所に出た。
「転移用の魔法陣であるね。」
「まさか、こんなもんがあるとはな。」
すぐに出口という訳ではなかったが、そこにはおそらく外と繋がっている
であろう魔法陣があった。
「どうしますか?」
「行ってみるしかないだろうな。」
イフリートからしたら、俺達を罠にハメる理由も特にないはず。というか、
何かあったら、シルフとの交渉役がいなくなるから、断固避けたいはずだ。
そうして、全員が魔法陣の上に乗ると、発光した。
ヒュン!
転移した時の独特な音が聞こえたし、周りの様子も違っているから、俺達は
どこかに跳んで来たんだろう。
周りは鉄の扉があるだけで、通路もなかったため、扉を開けてみると、
「あんれまぁ!」「人が出てきたっぺ!」
朝の光に照らされた、のどかな町の風景が広がっていた。
「んだば、イフリート様にお会いしなすったんで?」
「あぁ。」
今、話してる精霊は、町長だそうだ。
俺達が急に現れたのを、誰かが報告したらしい。
「あそこの魔法陣は、今では誰も使ってねぇってんで、知ってる人も
「何で使われてないのかしら?」
「特に用事がねぇもんでして。」
そんな理由で、俺達は苦労したのか……
だが、まぁ確かにアイツに頻繁に会いたくはない気持ちは分からないでもない。
「ところで、ここはどこなんですか?」
「ネスノっていう町で。」
「温泉が有名だよね。ピッガからだと歩き通しで二十日くらいかかる場所なんだ。」
そんな遠くまで転移したのか、だが温泉……いいな。
「へぇ~、じゃあ泊まっていきましょうか?」
「賛成です。あの洞窟で相当疲れ溜まったし、ちょっとくらい休憩しても
問題ないかと思います。」
「そうであるね。」
「俺も賛成だ。」
反対意見も出なかったため、一日はこの町でゆっくりと過ごす事に決まった。
町中は活気に溢れている……という事も無く、町の人も、旅行で訪れた人も
のんびりとしている。
こういうのも悪くないんだが、気になる……
そして、町で一番大きい温泉宿に来たが、
「何で、どこもかしこも日本風なんだ……」
見た目、老舗旅館といった感じの宿だった。
ここだけではない。町中で見た建物、お土産、浴衣……すべて日本の文化だ。
「話には聞いてましたが、変わった雰囲気の場所ですね。」
「昔、ニヴォンというところからやって来た旅人が、この町の基礎を作りまして、
それ以来、こんな感じですわ。」
案内役に付けられた、町長の秘書をやっているという六本腕の老人が答える。
ニヴォン……確実に日本だな。
「ちなみに、その旅人の名前は知ってるか?」
「それが不思議な話で、だ~れも聞き取れんかったっちゅう話です。
結局、またどこかへ行っちまったもんで、最後まで分からんかったとの事です。」
「その人、アンタのご先祖様かなんかなの?」
「さぁな。」
思わぬところで故郷の残り香を感じたが、まぁいい。
取りあえず、今日は羽を伸ばす事に専念しよう。
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