第193話 風呂に入っただけなのに……

「お姉ちゃんって言って?」

「いや、あのなサーシャ……」

「お姉ちゃん。」

「だから「お・ね・え・ちゃ・ん!」」


サーシャの気迫に思わず、

「お、お姉ちゃん……」

そう言うと、抱き着かれて頭を撫でられる。


「ん~♪」

「わ、私もお姉ちゃんって呼んでください!」

「何で、こうなった……」

少し前の出来事……




「ようこそ、いらっしゃいまし。」

俺達は町で一番大きい温泉宿の受付を済ませた後、俺は荷物を置いて準備をする。

部屋は防犯上の理由か、さすがに障子付きの和室とはいかず、洋風だった。


「よし、行くか。」

持ち物は浴衣とタオル。荷物だけ置いて、早速風呂に入りに行こうと思う。

何を隠そう、数少ない趣味の内の一つが、温泉に入る事だ。

時々、スーパー銭湯とかで和むのを楽しみにしてるほどだった俺が、本物の温泉に

入れるのが嬉しくないはずがない。


「どこに入ろう?いや、悩むことはないか。やっぱり最初はあそこだな。」

湯の種類がいろいろとあるらしく、それによって効能や大浴場、個室浴場などが

あるらしいが、やはり最初に入るなら……



「露天風呂だよな……はぁ、癒される……」

少し小さいが、宿の奥まった方にある、空が見える温泉。

夜の星が見える中での露天風呂もいいが、朝……いや、もう昼だな。

そんな時間の新鮮な空気と青い空の下、ゆったりとした時間を過ごすのも

おつな物だ。

しかし、この宿は凄いな。

ポンプのスイッチを押すと、蛇口から水やお湯が出てくるし、石鹸まで

常備されている。

日本の銭湯とほとんど変わらない。


「ん……?」

そんな考え事をしていたら、違和感に襲われた。

体がさっきより深く湯に沈み、背中の岩が上に伸びてるような……錯覚か?


「いや、そんな事……」

口に出してはみたが、やはり違和感は拭えない。というか、時間が経つたび

違和感が増していく。

せっかくの温泉に来てまでアクシデントか、くそっ!


そう思い、風呂から上がろうとしたが、

「周りの物がデカい、だと?」

さっきまで見た物すべてが大きくなっていた。


俺は急いで脱衣所に戻り、タオルで体を拭こうと……拭こうと……

「は?」

そこで分かった。周りの物が大きくなっていたんじゃない。

自分が小さくなって・・・・・・いたんだ。



「あんれ、お客さん。もしかして子宝の湯に入っちまっただか?」

風呂から出て、従業員に事情を説明したら、こんな言葉が返って来た。

「子宝の湯?」

「んだ。この町の初めての市長が名物を作りたくて、どこぞの願いを叶える泉って

ところで、若返る温泉出してくんなって願ったらしいんだわ。それで出来たのが

子宝の湯だよ。」

よし、今度あの泉の近くに行ったら、森ごと吹き飛ばそう。今決めた。


「この町には物騒な温泉しかないのか……?」

「他は普通の温泉だよ。あそこは予約制だから、通常は入れないはずだけんども、

多分、看板置いとくの忘れたんだな。まぁ一日で戻るから心配ねーで。」

怒りが沸き上がってくるな、ちくしょう!


しかし、状態異常無効のはずの俺を子供の姿に戻すなんて……

今の俺の身長はフィルと同じくらい、つまり小学生くらいになって、しかも

ステータス確認や毒合成などのスキルも使えない。

この調子じゃ【ATK】などの値も、元に戻ってると思う。

あの泉、一体何なんだ……?


しょうがなく全員に説明しに行ったら、サーシャが何故かお姉ちゃんと

呼ばせたがるし、他のヤツらも生暖かい目で見てくる……

「それにしても、子宝の湯?だったっけ。凄い効果ね、私も入ろうかしら。」

「あそこは若返りの湯じゃなかったかしら~?」

「どちらでも正解ですよ。」


俺達が騒いでたのを見てか、エルフの女将がやってくる。

「そうなんだ?」

「えぇ。本当は少しお年を召された方が入るんですよ、その後は……ね?

ここは温泉宿ですし。」

そう言った女将は服の裾を口に当てて笑う。


なんかもう、色々と最悪だが、こうなった以上は明日を待つしかないか。

俺はその時、そう思っていたが、肝心な事に気付いていなかった。

スキル【冷静沈着】が、どれだけの意味を持つのかを……

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