第188話 ドラゴンの最期

俺が殴り、アリアが急所を斬りつける。

それを繰り返し繰り返し行うたびに、ドラゴンの悲鳴が大きくなる。

《ギャアッ!》

「まだ、終わりじゃないですよぉ?」

アリアが、足首の関節の部分――皮が薄くなっている部分に力任せに剣を

突き立てる!


顔が地面近くまで落ちてきたので、思い切り蹴り上げる。

「ふっ!」

《ング!?》

その反動で大きく仰け反ったが、その間に火を噴く準備を進めていたらしい。

俺達の方に何とか向き直った途端、口を大きく開けていた。


「させるか!」

ドラゴンが火を噴く時、喉元が大きく動くのが分かっていたので、俺は

逆に口の中目掛けて飛び込んだ。

そして、呪文を唱える。

「土よ。原初たる恵みの息吹よ。罰を犯す者に今一度、安らかな時間を与えるため

その胸に抱きたまえ…ロックプレス!」


岩の塊が、口から喉、喉から体内へと凄い勢いで侵食していく。

属性魔法に耐性があろうと、皮に包まれていない、柔らかい部分を傷付けられながら、

押し入ってくる岩に耐えられる訳がない。

それに、耐えたところで窒息するだけだ。


魔法を発動し終わった後は、口の中から脱出して、成り行きを見守った。

さすがに生命力が強いのか、少しだけもがいていたが、そのうちに力なく

崩れ落ちた。

「終わったか……」

ステータスを確認してもHPが0となっている。


「勇者殿、はい。」

「……何をしてる?」

「えっ?ちゅーですよぉ、分かってるくせに~。」

何故か両手を広げて、口を尖がらせているアリアに質問したら、そんな事を

言ってきたので、フルリカバリーの呪文を唱える。


「……あれ?」

正気に戻ったらしく、辺りを見回している。

だが、さっきまでの事は覚えていないみたいで、倒れているドラゴンを見て、

「さすが勇者殿です!」

と、言ってくる。

俺だけの力じゃないとは言ったが、ほとんど聞いていない。

まぁいい。それよりも、他の四人を治さないとと思い、四人の元へ向かった。



「また変な事になってるな……」

四人はきっちり状態異常にかかっており、スターナは膝を抱えて丸くなり、

地面に指で丸を描きながら、

「ワタシ、ちゃんと女王やってるもん……ぶ~……」

いじけている。


「やってらんね~……だり~……」

フィルが地面に横になってグダっている。

「あらあら、どうなされたのですか?うふふふふ。」

それをお嬢様口調になったサーシャが、笑いながら眺めている。


詐欺師は、さっき俺の頭にぶつかって来て、

「おう兄ちゃん、ぶつかって何の謝罪もないんかい!おどれ、舐めとったら

いかんぞ、あぁん?」

まるで、やくざ映画さながらの啖呵を切って絡んでくる。

こいつだけ、何か違わないだろうか?


「あ、あれ?ボクどうしたんだろ……」

「う~ん……何か頭がボーっとするである。」

四人に魔法をかけると、少し時間をかけながら治っていったみたいだ。


「あ、ドラゴンが!?勇者ちゃんがやったの?」

「やっぱり、さすがね。殴り飛ばした時は引いたけど。」

うるさいな。


「ここは……もしかして!」

一応、脳筋にもした説明を他のメンバーにもしていると、フィルが声を上げた。

「どうした?」

「もう少し行けば、一番奥に着くかも!」


どうやら、地面を割って進んだせいで、思わぬショートカットになったらしい。

一時はどうなる事かと思ったが、不幸中の幸いだな。

ただ、ステータスがいくら高くても、無敵ではないって事を忘れないでおこう。

実際に目つぶしや落とし穴は邪魔になるし、さすがに俺も目や、爪の間なんて

狙われたらダメージを食らうだろうしな。

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