第164話 サーシャ

「リュリュさん、動かないでくださいね。」

「むぎょほほぉぉぉ~……も、もっと優しく、みょ~……」

詐欺師が相変わらずの変な叫び声を上げつつ、脳筋にトリモチを

取ってもらっている。


「しかしな、どうしたんだサーシャは?」

疲れは無いとはいえ、さすがにこのままという訳にもいかんだろう。

しょうがないので、そのまま各自の部屋に戻って休む事にした。


「ふぅ。」

俺はベッドに腰かけるが、相変わらず腕が首に巻き付いたまま。

「座りにくくないか?」

「大丈夫である。」

「俺が座りにくい。」

その後の反応はないので、無視されたらしい。


「ヅギャは……」

「ん?」

やっと少しずつ口を開き始めた。


「ヅギャは結婚する?」

「いや、しない。」

「ずっと?」

「それは……分からんが。」

「結婚したら、我が輩は一緒にいられないである?」

サーシャの腕に力が入る。


「今はみんな、ヅギャに付いて来てるである。ヅギャがいなくなったら、

みんなバラバラ。また一人ぼっちになるである。もう一人で寝るの

怖い。」

今までも何回かは別々で寝てたんだが、俺がいなくなるかもと思って、

寂しくなったらしい。それが必死にしがみついてきた理由か。


「あのな、俺だけじゃない。サーシャだって、その内に俺から離れていくし、結婚する相手も見つける。」

「そんな事ない!」

「いいから聞け。俺も他のヤツらも、それぞれにやらなきゃいけない事だってある。

それが終わったら別れるのは当然だ。」

俺の言葉を聞いて、サーシャが嗚咽を上げる。


「だけどな、すぐにじゃない。一人ぼっちが嫌なら、サーシャの相手が

見つかるか、大丈夫になるまでは傍にいてやる。」

「ひっく……ずっと無理だったら?」

「その時はその時だな。」

ズルい言い方だが、他にいいセリフが思いつかなかった。


そのまましばらく経つと、しゃくり上げる声も聞こえなくなり、腕の力が

弱まっていた。

「寝たか。」

サーシャが寝たのを見て、飯やら何やらを全部抜かして、そのまま俺も眠った。



翌日、脳筋目覚まし、朝食、準備などを済ませて、外に出た。

その間、サーシャは無言だったが、背中に乗ってくるような事はせずに、

服を引っ張るだけに留めてくれた。

「サーシャちゃん、落ち着いた?」

「……うん。」

そうは言うが、まだ少しうつむいたまま、俺から離れようとしない。


「アリア、結婚って……どうやってするである?」

ようやく今日初めて、ちゃんと喋った。

「え?えっとですね。まずは新郎と新婦が綺麗なお洋服を着ます。」

説明が雑だ。


「それでですね、教会で神父様に祈りの言葉を捧げて貰うんですよ。

そしてお互いが相手の胸元にプロポーズ用の花を挿します。」

前の世界と似ているが、少し違うんだな。


「そして、その……あ、相手と誓いのキスを……キャー!」

脳筋が顔を覆って、真っ赤になってる。指の隙間からこっちを見ないで

くれ。

俺はそういうのが苦手なんだ!


「……ジュワァ。」

俺の名前が、味が染み込んだ料理を食べた時のような擬音になった。

まぁいいんだが。

「何だ?――むぐっ!?」

サーシャが俺に飛び付き、キスをしてきた。脳筋が固まった。


「ぷはっ!これで結婚?」

「い、いや違う。」

俺は慌てて否定した。

「でも誓いのキスしちゃったから、大きくなったら結婚してね?

そうすればずっと一緒!」

サーシャが今までにないくらいの笑顔で俺を見てくる。


「お嫁さんが増えたわね~。」

「モテモテで羨ましいわ~。」

……俺にどうしろというんだ?

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