第163話 引っ付いて離れない

全員が耳を塞いで、しばらく悶絶してた。特に至近距離で食らった俺は。

「……サーシャちゃん、どうしたの?」

脳筋が一番早く復帰して、サーシャに手を伸ばすが、

「ふっー!ふっー!!」

と、息荒く必死にしがみついて、離さない。


「おい、サーシャ。」

「や!」

「あのな?」

「いや!」

何より会話すら成立しないので、どうすればいいか分からない。


「えっと、これは今日のところは引いた方がいいでしょうか?」

「今日のところだけじゃないと助かるんだが。」

サラが俺とサーシャを見ながら、残念そうな顔をして少し離れる。脳筋は

何故か勝ち誇ってる。なんでだ?


「分かりました。でも、その状態なら今日は町にいますよね?

でしたら、また会いに来ます。私は別で宿を取っていますのでこれで。」

めげないヤツだ……

こちらに一度、頭を下げてから泊まっている宿に向かって足を進めて、

しばらくすると見えなくなった。


さて、どうしようか?

「サーシャ、ずっとそのままでいる訳にはいかないでしょ。」

「そうよ~。それに疲れちゃうでしょ?」

「む~!」

詐欺師とスターナは説得を試みるが、効果は薄い。というか効いてない。

脳筋は、

「いいな~……」

何か変な事を口走ってるが、無視だな。


「ヅギャ……」

サーシャがやっと普通の言葉を喋った。やれやれ、これ「漏れそう……」……は?

「おい、サーシャ降りろ。」

「いや。」

「漏れるんだろ、トイレに行け!」

「いや!一緒!」


マズい!どうする!?

「ヅギャ!早くトイレに連れて行きなさい!」

そうだ、俺が連れて行けばいいんだった。思ったよりも焦っていた

らしい。


そうしてトイレの前に着いたのだが、

「ほら、早くしろ。」

「一緒。」

「……何が?」

「一緒にトイレ入るである。」

とんでもない爆弾発言をかましてきた。


「馬鹿を言うな。」

「じゃないと、ここで漏れちゃうである。」

何だ、この二択。



どんなに言っても聞かないし、タイムリミットも迫っていたので、取った方法。それは、


サーシャと一緒に個室に入る。


「は、恥ずかしいから、耳は塞いでいて欲しいである。」

……トイレに一緒に入るのは恥ずかしくないのか?

俺はドアの方を見ながら耳を塞ぎ、何も考えない。

サーシャは用を足しながらも俺の服の裾を引っ張っている。


しばらくすると終わったらしく、背中に重さを感じた。

「もう大丈夫である。」

……凄く疲れた。俺は異世界で一体、何をしてるんだろう?


トイレからサーシャを背負って外に出ると、三人と出くわした。

脳筋は驚いて、スターナは笑っていた。詐欺師は、

「ついに手を出した!?」

とか抜かしやがった。



「また虫~!うんぎゃあああああぁぁぁぁぁぁ!」

久しぶりに虫を寄せ付ける薬を使ったな。他にも詐欺師用にいろんな薬を

調合しといてもらうか。

だが、相手もさる者で虫より速く飛んで逃げていく。


「ふ、ふふ!このリュリュ様が、そう何度も同じ手に――ぶべっ!」

「何だこれ?」「変な虫ー!」

子供に虫と勘違いされて、トリモチをくっつけられた。

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