第159話 屋敷の外で

「それにしても、警備がずさんね~。」

屋敷を歩き回っているのだが、大した人数もおらず、あくびをしたり、

眠そうにしてたりと、侵入したこちらが心配になるくらい、やる気が

なかった。

「あいつの人望が垣間見えるようだな。」

一応、それなりの金は貰ってるんだろうが、それでこの態度は守る気も

ほとんどなさそうだ。


「こっちには都合がいいわね。さっさと調べちゃいましょう。」

「あぁ。」

俺の【見識】で人がいるかどうかを確認し、部屋を調べていく。

スターナの転移魔法は、最低でも目視できる場所にしか飛べないため、

部屋には直接入れない。

「中に入ったときみたく、外から転移した方が早かったか?」

「でも巡回してるし、窓がない部屋は見えないと転移しようがないわ。」

それもそうだな。仕方がない、地道に回るか。


いくつか部屋を回って、

「ここは執務室ね~。」

ようやく何かありそうな場所を見つけた。が、机を調べてみても、

壁の本棚を調べてみても特に不審な書類等は見つからなかった。


「本当に何もないな。」

「そういう都合の悪い物は持ってきてないのかしら~。」

「いや、それはないと思う。ああいう小心者はむしろ自分の近くに

置いておかないと気が済まないタイプだろう。」

そう言いながら部屋を出ようとした時、前に奴隷商人の件で隠し通路が

あったのを思い出した。


物は試しと、そこら中にある物を動かしてみたところ、

「あったな。」

本棚に飾られていた天秤のインテリアがスイッチだったらしく、カチッという音がすると、本棚が一部だけ動いて、隠し扉が出現した。

中には金銀財宝といった物から違法取引に使われたであろう書類の束などがあり、サラの父親と契約した書類一式も隠されていた。


「これで向こうの悪事が証明できるって訳だ。」

「そうね、じゃあこれを持ってさっさと戻りましょうか~。」

その時、爆発音とともに屋敷が大きく揺れた。

「何かしら今の?」

「わからんが、急ぐぞ。」


二人で隠し部屋から出て、スターナの転移魔法で外に脱出すると、

「ギャー!虫ー!」

「剣が当たりにくいです!」

「殺虫剤が効きにくいである!どうしてでであるか!?」

三人が虫に襲われていたが、詐欺師はベルで地面ごと攻撃、脳筋は何とか剣で斬ろうとして、サーシャは殺虫剤を撒いて応戦している。


「おやおや、まだ盗人がおりましたか。」

「こいつらはサラと一緒にいたヤツらではないか。」

そこにはツダ男爵と細長いモヤシのような男、そして手下が数人と

捕まっているサラの姿があった。


「さっさと殺って……いえ、そちらの胸の大きな女性はアタクシのペットにして差し上げましょう。」

モヤシ男はスターナを見て、分かりやすいくらい鼻の下を伸ばした。

こいつもツダ男爵と同じように、スターナが女王とは気が付いていない。

「お断りするわ。」

「連れないですね。でも、そんなセリフはすぐに言えなくなりますよ?」


そして、モヤシ男は懐から笛を取り出して吹き始めたが、

「音がしない?」

「馬鹿なのか?」

構わず笛を吹き続けていると、三人に群がっていた虫がこっちにも襲ってきた。


「はぁっはっは!どうだ虫寄せの笛の効果に驚くがいい!」

「この笛を吹いた人間の意志に従って、魔法で作られた幾万の虫が、

お前達を食い殺すぞ!」

今まで誰にも破られた事が無いからだろうが、道具の効果を敵に説明するなんぞ馬鹿すぎるだろ。

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