第160話 正体をバラしたら

確かに幾万の虫が襲って来るのは脅威だが、

「スターナ、頼めるか?」

「はいは~い。」

気の抜けたような返事とともに、地面に魔法陣が現れて、そこから

属性魔法がどんどんと打ち出される。三人のところにも魔法陣ができ、

襲い掛かろうとしていた虫は、近寄ったヤツから死んでいった。


「な、な、な!なんだと!?」

「この笛で作られた虫が、こんなに簡単に死ぬなんて!?

えぇい、くそっ!こうなったら、もっと作り……あれ?あ、え?ない?」

モヤシ男が手に持っていた笛を無くして探しているが無駄だ。


「探し物はこれか?」

「え?あぁそれ――んぎゃあ!なぜ後ろに!?」

俺が笛を奪って、さらに後ろに立っていた事に気付かなかったらしく、

変な悲鳴を上げて、大げさに驚く。


「これを壊せば終わりだな。」

俺が笛を握りつぶすと、スターナが打ち漏らした虫も、煙のように

消えていった。


「貴様ぁ!その道具にどれだけの価値があるの――ぎゃびぅ!」

「レスト男爵ぅぅ!おのれ、よくもぉ!お前らやってしまえ!」

やかましかったので殴ったモヤシ男は、サラの父親が借金する時の

証人になった、レスト男爵とかいうヤツだったらしい。殴れてちょうど

良かった。


ツダ男爵の命令でサラを捕まえてた手下どもが、俺に斬りかかってくるが、

「遅い。」

「ぐがっ!」「ぬぐぅ!」

雑魚ばかりだったので、軽く殴ってやるだけで気を失っていく。


「ひっ、ひぃ!こんなのを相手にするなんて聞いてねぇぞ!」

「逃げろ!」

「お前ら!待て、どこに行く!?」

五人ほど倒したところで、残りの手下はお決まりのセリフを吐きながら

逃げ出していった。その隙に四人はサラの近くに行き、周辺を警戒

しながら、ツダ――いや、ブタとモヤシを睨み付けている。


「さて、と……」

「き、貴様ら、僕ちんを誰だと心得る!?男爵の地位を得ている僕ちんに

暴力を振るったら、国同士の戦争に発展するぞ!」

ブタが何事か喚いている。

「そっちから吹っかけてきたくせに、偉そうだな。」

「僕ちんは偉いんだ!」

手をバタバタさせながら、地団駄を踏んで、顔を真っ赤にして叫ぶブタ。


「それに何でサラを捕まえてる?」

「どうせ借金が払えないんだから僕ちんの物になるんだ!どうしようと

勝手だろ!そ、そんな事よりお前等、地面に頭を付けてひれ伏せ!

謝罪するのなら、金と女を渡せ!そしたら聞いてやらんでもない!」

要求が多すぎる。どんだけ欲望に忠実なんだ?

しかも殺そうとしておいて、こちらに謝れとは頭がおかしいにも程が

ある。


「謝る理由がないである。」

「それに私達をどうするつもりですか!?」

「気持ち悪いから、お断りよ!」

それを聞いたブタが顔を真っ赤にしながら叫ぶ。

「うるさい!|ヴァファール王国の貴族に手を出して、ただで済むと

思うな!」


何故か今のセリフで、特に使う必要もなく、ずっと忘れていた物を思い出した。

「脳筋、道具袋の中にある高級そうな羊皮紙を取り出せ。」

「へ?あ、はい。」

屋敷に突入する前に預けていた道具袋を調べるように指示を出す。

「これですか?あっ、これは!?」

どうやらアイツも忘れていたらしいな。


「何だ、一体!?」

「ひれ伏すのは貴方です、これを見なさい!」

脳筋が出したのは、最初に旅に出る前の準備で貰った羊皮紙、俺が

ヴァファール王国の庇護下にあると示す、勇者の認定証だった。

ブタの目が点になる。


「それに、こいつはイオネ王国の女王だ。」

俺はスターナを指さしながら言う。

青いを通り越して土気色になったブタの顔を見て、まるで水戸のご老公にでもなった気分だった。

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