第123話 夜更けに出会う者(マノム視点)

「む?」

寝ていたはずのマノムの目が急に冴え始めた。

この感覚がした時は決まって敵が攻めてくる場合だと分かって

いたからだ。


「誰ぞおらぬか?」

声を掛けても反応はなし、ではなかった。

「いるぞ。」

男の声が寝室に響く。


「れでぃーの寝床を襲うとは趣味が悪いのう。夜這いなら

お断りじゃぞ?」

「お前みたいなヤツを抱きたいとも思わんな。」

男の言い草にイラッと来るマノム。

「失礼なヤツじゃの。では何用ぞ?」

「殺しに来た。」


端的な物言いでマノムに歩み寄る。

マノムは自身の戦闘能力が弱いのは分かっていたが、それを補う

特殊能力、精神力を込めて目を合わせた相手は石化するという能力が

あったため、安心していた。

「おっと先に言っておくが、あんたの能力は効かんぜ?」

「なぬ?」


歩みを止めない男の顔が月光に照らされると、

「モグラの獣人か……」

モグラは目が退化して光を感知する程度しかないため、マノムの

能力は無意味。

「ここは逃げの一手じゃ!」

一応、危険に備えて剣も使えるが、一人で暗殺にやってくる男の相手が

できるほど強くはない。


ベッドから飛び起き部屋を出る。

そこで大声を上げる、使用人の名前を呼ぶなどしたが、一向に誰かが来る

気配はない。

仕方なく、一番近くの使用人の部屋の扉を乱暴に開けて起こそうと

思ったが、

「ヒ……!」

寝たまま首を切り裂かれていた。


「いくらなんでも準備せずにいきなり襲う馬鹿がいるかよ。あんた以外は

みんな殺した。」

部屋の前に立っていた暗殺者が言った。

自分の護衛の役割を果たす使用人が寝ていた状態とはいえ、身動き一つ

取った形跡もなく殺されている。

思っている以上に恐ろしい敵なのかと、マノムは今さらになって震える。


「恨みはないが死んでくれや。痛みはないはずだからよ。」

今までは周りの護衛、六魔の面々、王が守ってくれた。

一対一で戦った事などほとんどなく、あっても大体は能力で

石化させてきた。

生まれてから窮地になど陥った覚えはない。


怖い、死にたくない。

マノムは恐怖というものを感じたのは初めてではなかったが、命の危険に晒されて、

「た、助けて、金か?金があれば見逃してくれるか!?」

人生初めての命乞いをした。


「金か。」

「そうじゃ金じゃ!全てくれてやろう!」

「お前を殺せば、依頼金と合わせてさらに儲けられるってわけだ。」

「……!い、嫌じゃ!死にとうない!誰か助けて、誰か!」


暗殺者がマノムに近付く。

指はカギ爪状になっていて、地が滴っている。それで使用人達を殺したの

だと強制的に理解させられた。

足がマノムの一歩手前で止まり、手を大きく振り上げる。

「死ね。」

暗殺者の無慈悲な宣告に頭が追いつかず、景色がゆっくりに見える。

きっと自分の体を何の抵抗もなく通り過ぎていくのだ、殺されてしまうの

だとマノムは生きるのを諦めた。



「ハァッ!」

「ぎ!」

ゆっくりに見える景色、それでも認識できないほどの速さで何かが

横切り、暗殺者を吹き飛ばしていった。


昔、母親から聞いていた話。

人間の女は、自分が危機に陥った際は白馬の王子様が助けに来て

くれるのが夢だという。何を言っているのか理解できなかった。

そんなのが夢とか頭が沸いてるんじゃなかろうか?そう思っていた。


が、マノムの目の前に現れた男は……

「大丈夫か?」

命を救い、心配するセリフを投げかけてきた。


あの話は人間ではなく世界中の女の夢なのだろう。現に、

「白馬の王子様……」

マノムは目が離せなくなっていた。

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