第107話 普通の町
食事が終わるまで待っていたというよりは、呆然としていた俺達に
メイドが告げた言葉は、
「まだいらっしゃったのですか?」
だった。
「何アレ!?」
「俺に言うな。」
「いくらなんでも訪ねてきた相手にあの態度はないんじゃない!?」
「まぁ……そうですね。」
少しだけ遠回しにフレーグベルの手伝いをする邪魔だと言われ、転移用の魔石だけ
を渡されて部屋を追い出されかけたが、このまま引っ込むのもと思い、
「また明日来る。」とだけ言葉を残し、町に向かう事にした。
統治者がアレだと町も相当酷いものと想像してはいたが、実際に着いてみると、
「普通の町であるな。」
「確かに。」
「逆に怪し過ぎるんだけど。」
旅の途中で訪れた町と変わらない町並みが広がっていた。
「とにもかくにも情報収集しておくか。」
「そうであるね。」
俺達は食堂に立ち寄り、フレーグベルについて聞くついでに少し早めの昼食を
取る事にした。
「へい、らっしゃい!」
リザードマンが仕切っているらしい店に入ると、時間をずらしただけあって、
客が少なめで都合が良かった。
軽食を頼み、持ってきてもらった際に話が聞けた。
「フレーグベル様っすか?あの子は本当にものぐさでねぇ。先代がいた頃から
でしたけど、亡くなってからは前以上に周りの付き人が過保護に育ててるんすよ。」
あれは過保護というか介護だ。
「男としちゃ羨ましいような、頼りなさすぎなような……人間に近い顔立ちしてるからあんまわかんねっすけど、美少年の部類に入るんすかね?周りにいる
メイドさんも町の女達も世話できるなんて名誉だみたいな感じなんすよね。」
顔立ちは整ってはいたが、あそこまで熱を入れるほどか?
「町に悪影響はないのか?」
「悪影響か……う~ん、治める人があんなんなんで自分達でしっかりしようってなってて、
反対にいいような気がしないでもないっす。」
「それもどうなのよ。」
「しょうがないっすよ。でも、こんな風に気軽にフレーグベル様の話をしてても
変にしょっぴかれたりしないし、メイドさん達も能力は高いっすからね。
悪い町ではないと思うっすよ、自分は。」
上がしっかりしないから、下が……か。
それから多少の話をしたが、あまり引き止めるのも悪いので礼を言って食事を
取る。
「ん……美味しいじゃない。」
「本当、野菜にもさっぱり系の薄い味付けがされてるからスルスル入りますね。」
注文したのはローストビーフを野菜と一緒にパンに挟んだサンドイッチだが、
タレがポン酢に似たもので、見た目より簡単に胃に収まっていった。
食事が済み、町を観光がてらブラブラして話を聞いていたが、
さっきの店主と同じような内容で、代わり映えしなかった。
「サーシャ、この町は変な感じはするか?」
「ここは大丈夫だと思うである。」
前に違和感を感じ取ったサーシャのお墨付きもあるし、領主が特殊というだけの
普通の町らしい。
これ以上は情報も集まらなさそうだったので、宿を取り一泊してもう一度訪ねよう
となったが、翌日の朝、
「勇者様、お力添えを願えますか?」
向こうからやって来た。今度は何だ?
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