第106話 面倒くさがり屋のフレーグベル

「ここがフレーグベルとやらの城か。」

「誰も来ないですね。」

レフィカの城で一泊した後に魔石を使い、別の六魔の城まで転移した。

話によるとフレーグベルというのは尋常じゃない面倒くさがり屋で、自分の

身の回りの世話から雑務までを全て他人任せにしているらしい。

しばらく待っているとメイドがやって来た。


「ようこそおいでくださいました。レフィカ様から用件は伺っております。」

「じゃあ、早速フレーグベル様に会わせてもらえるかしら?」

「こちらへどうぞ。」

無機質な対応をするメイドの後を付いていき、ある部屋に案内された。


「この中でお待ちしております。」

ドアを開けて部屋に入ると寝室だったらしく、やたらデカいベッドと壁に並ぶ

メイド達、ベッドの上には子供の姿があった。

「お前がフレーグベルで合ってるか?」

……返事が無い。


「その通りでございます。」

後ろからさっきのメイドが返事をする。

「じゃあさっさと説明だけ済ませるぞ。」


今までの事情をざっと説明したが、相槌一つ打たずに聞いているだけだった。

「……という訳だ。協力してもらえると助かるんだが?」

またしても沈黙。

「おい、何か「ご主人様は面倒くさそうなので断るとおっしゃっています。」……」


さっきから本人は喋らずにメイドが回答するのはどうだろうか?

「まさかとは思うが、話すの自体が面倒くさいとか言うんじゃないだろうな?」

「そのまさかでございます。」

……マジか。


メイドに尋ねてみる。

「お前はどうしてコイツの言う事がわかる?」

「長い間、仕えていますので表情や呼吸、目線で察せるようになります。

また返答までに間が空いた場合は基本的に拒否を示しています。」


「ど、どうしましょうか勇者殿?」

「手強すぎるである。」

「説得しようにも、まともに話を聞いてくれてるかすら分からないんだけど。」

三人が困惑してる。いや、俺ですらさすがにどうかと思うが。


「質問に対する回答を行いましたのでお帰り願えますでしょうか?」

俺達に帰れと伝えてくるメイド。

「どうしても協力しろという状況ではないが、これで納得しろと言われてもな。」

「ご主人様は通常、人前にも出られないのです。こうしてお会いになる事が

レフィカ様と勇者様への最大限の敬意なのです。」

いや、喋ってもないのに敬意を払ってると聞いても信じられるか。


不意にフレーグベルが口をゆっくりと動かした。

「……ごはん。」

言い終わるやメイド達が一斉に黄色い声を上げ始める。

「きゃ~!」「可愛い~!」「まさかお声が聞けるなんて……」

そこで俺達の傍にいたメイドが一喝する。

「静まりなさい!今のお言葉が聞こえたでしょう!?早くお食事の用意をし

なさい!」

「「「は、はい!!」」」


急に場が慌しくなり、メイドが出たり入ったりを繰り返す。その間は

まるで俺達など眼中にないみたいで、放っておかれた。

その内に食事が持ってこられて毒見が済むと、一番偉いと思われるメイドが、

「はい、あ~んしてください。」

飯を食わせ始めた。


「いいなぁ……」「私も早くやらせていただきたいです……」

「次の当番はアタシ、次の当番はアタシ……」

他のメイドからの声が聞こえてくる。


面倒くさがり屋とか言うレベルじゃない気がするんだが……

ここまで来るともう宗教と代わりがないな。

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