第101話 不安なサーシャ

「勇者様、申し訳ありませんが本日は所用がありまして。滞在している間は

お好きになさっていただいて構いませんので、返事はもう少しお待ち

いただけますか?」

この城に泊まった次の日、アッセムドゥから言われた。


「どうしよっか?」

「では町にでも行ってみましょうか。」

「賛成である。」

メイドにそう告げると馬車を用意されたので、それに乗って俺達は城を

出る事にした。


「いや~、あのお城は料理も美味しいしお風呂も豪華だったし、凄い気に

入っちゃった。」

「私もです。」

「我が輩、薔薇の味が苦手である。」

「そういえばアレの味が付いた料理に一切、手を付けてなかったな。」

馬車に乗ってる間、雑談が始まる。


「あのアッセムドゥという方、紳士的で好感が持てますね。」

「そうね。今まで変なのに出くわす方が多かったしね。」

それは、自分も含めてという意味でいいのだろうか?


「サーシャはどう思った?」

「む~……あまり……」

どうもサーシャは料理だけじゃなく、城の人間や雰囲気も苦手らしい。

俺がどこかに行こうとしたら、手を取ってきて一緒に歩いて回っていた。

「なんか気に食わなかったのか?」

「何か苦手であった。」


そうこうしている内に馬車が町に着いた。

あの城をサーシャがずいぶんと苦手そうにしているので、今日は町に泊まると

御者に伝えてもらい、町に入った。


町の雰囲気は明るくて活気があり、広場を見てみると魔族の大道芸人や

売り物を広げてる商人、それに負けじと声を張り上げて店の商品を

売ろうとしてる店の主人が目に付く。


「だいぶ人が溢れてるわね。」

「それだけしっかりと統治されている証拠ですね。」

適当な店でもみようと歩き始めた時、サーシャが手を握ってきた。

「どうした?」

「……なんとなくである。」

昨日からどうもサーシャの様子がおかしい。

「何か感じるのか?」

「なんとなく変な違和感があるである。」

やたら不安がっているので、そのまま手を繋いでおいた。


「お、いらっしゃい!」

元気付けるためと、前の町では結局寄れなかった薬屋に入ってみる。

すると目を輝かせながらサーシャがいろんな薬を見たり、新しい材料がないか

探している。

もちろん俺の手は離さないので引っ張られる形になってるが。


「お客さん達は旅人かい?」

「そんなところです。」

「ここはいいところだろ?アッセムドゥ様がしっかりと領主として働いてくれてる

おかげだよ。他の六魔の方々だったら、こうはいかないよ。」

「そうなの?」

「自由奔放な人が多いからね。」

そういやレフィカが治めてる町は見てなかったな。


薬屋に入ったのが良かったのか、サーシャがご機嫌になってきた。

そして、いくつか薬や材料を買い込んで店を後にし、他の店めぐりや

大道芸人の芸を見たりしていたら、昼になったので宿で部屋を取った。


「この町、楽しいですね~。」

「みんな明るいしね。でもサーシャの言った違和感ってなにかしら?

特にそれらしいことは見当たらなかったけど。」

俺は今、ベッドに腰掛けているが、サーシャはその足の間に座って

抱きかかえられているような形になっている。

薬屋でテンションが上がったはずなのだが、また元に戻って俺から

離れたがらない。


「しばらく町の方に泊まりつつ、様子を見てみるか。」

「ですね。もし何かあれば対処できるようにしておいたほうがいいですし。」


獣人ならではの勘でも働いているのかもしれんな。

警戒はしておくに越した事はない。

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