第90話 勇者の冒険

夜になって、

「ここの単語はこうである。」

「ああ、これか。」

サーシャに教えてもらいながら、お姫様への手紙を書いていた。

「私も教えようとしたのに……」

「脳筋に教わると誤字だらけになりそうだからな。」

「ヒドい!?」


そうして現在いる場所と、今までの出来事を軽く書いた手紙ができた。

「手紙はどうやって届ければいいんだ?」

「町のどこかに配達屋がいるはずです。その人に渡せば転送魔法でヴァファール

まで送っていただけますよ。」

「一般の人間から届いた手紙が王宮まで届くのか?」

「検閲さえ済めば問題ないはずですよ。」

ずいぶんと気軽に物を送れるものだな。


手紙を書き終わっても、もう夜だし特にする事がなかったので

せっかくだからと買った絵本を見ることにした。

「何その本?」

「文字の勉強用に買った。」

「ふ~ん。あ、有名な絵本じゃない。」

「そうなのか?」

昔の勇者が魔王を倒すまでをまとめた物だったな。




”勇者の冒険”

昔々、世界は闇に包まれていました。

空は薄暗く、海は濁り、空気は苦い味がしたのです。

それは全て魔王のせいでした。


魔王は世界を支配するために、みんなを苦しめていたのです。

「ワッハッハ!苦しいか?これ以上、苦しい思いをしたくなければ

全員、我の言う事を聞くがいい!」


そんな時、どこからともなく勇者が現れました。

「魔王め!みんなを苦しめるなんて酷い事を……覚悟しろ!」


勇者はとても強く魔物たちを、ばったばったと倒していきます。

さらに旅の途中で、いろんな仲間と出会い助け合いながらとうとう魔王との

戦いがやってきました。


「よくぞ、ここまで来たな。褒めてやろう。」

「みんなを解放しろ!」

「嫌だと言ったら?」

「お前を倒す!」


魔王と勇者達の戦いはすさまじく、一ヶ月も続きました。

ですが、とうとう魔王が倒される時が来たのです。

「ゆ……勇者よ。我は滅びぬ……いつかまた、復活するだろう。

その時を楽しみにしているがいい……ワッハッハッハ!」


魔王の身体が崩れていき、ついに消えてしまいました。

「やった!僕達は勝ったんだ!」


こうして世界の平和は守られたのです。




読んでみたが、よくある物語だったな。

「私も小さい頃に、そのお話を聞かされましたよ。」

「我が輩もおじいちゃんに聞かされたである。」

「へえ。」


よっぽど人気なのか?まあ世界を救った勇者様のありがたいお話だしな。

「で、これが実際にあった話と。」

「らしいけど、誰も見た人いないしね。」

そうだろうな。


「この絵本は子供にも分かりやすいように物語を簡略化して描いてますから

詳しい内容は載ってないですけどね。」

「詳しい内容はどうやって調べるんだ?」

「ティリア宗教都市で当時の日記の原本が厳重に保管されてますが、軽々しく

見ることはできないので、代わりに司祭様が布教しつつ広めています。」

いつか行った時にでも聞いておくか。


そうして眠るまでの時間は雑談や、貰ったまかない料理を食べながら

過ごしていた。

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