第89話 買い物

店主はいいと言ったが、気が引けるので商品の代金と修理代を出して外に出た。

ベルは妖精じゃないと使い道がないし、代金を払わなかったからとタダで

貰った。

俺は紐付きの小さい袋を回転させながら道を歩く。


「あの、勇者殿?」

「何だ?」

「もうそろそろいいんじゃないでしょうか……?」

「かれこれ10分は経ってるである。」

「まだそのくらいか。」

声は少し前から聞こえなくなったが、まだいいだろ。


「……」

「リュリュさん!しっかりしてください!」

さらに10分経ち、袋から出すと白目を剥いた詐欺師の姿があった。

「鬼……」

「どうかしたか?」

まだ少しやり足りないな。


「う゛ぇぇぇぇ……」

「これ飲むであるよ。」

サーシャが気付け薬と酔い止めを作り、詐欺師に飲ませた。

「あ、ごめ……オェェェ……」

飲んで即吐くのであまり意味はないがな。


詐欺師は飛んでも、誰かの肩に乗っても振動で気分が悪いと言い出す。

注文が多いヤツだ。

「勇者殿。さっきのは確かにリュリュさんが悪かったですけどやり過ぎです。」

「そうである。」

怒られた。理不尽だ。


このままでは埒があかないので、薬屋にはまた今度付き合うからと言い

サーシャに詐欺師を任せて先に宿を取ってもらう事にした。

脳筋は俺と買出しだ。


「なぁ。」

「なんでしょう?」

「さっきからいろんなやつに見られてる気がするんだが。」

「当たり前じゃないですか。」

「なんでだ?」

脳筋の目が大きく開く。


「それ本気で言ってます?」

「悪いか?」

「はぁ……」

ため息をつかれた。イラッとする。


「そんな大きい棍棒を片手で引きずらずに持ってれば当たり前じゃない

ですか。」

「……なるほど。」

普通に持てるので忘れてた。まぁいい。次の目的は……

「次は消耗品を買っておいた方がいいですかね。」

「なら俺は雑貨屋を見てくる。」

「分かりました。」


そうして二手に別れ、俺は雑貨屋を覗く。

「いらっしゃい。え?」

雑貨屋も俺の持ってる棍棒に目を丸くする。


「すまんが、これとこれをくれ。」

「は、はい。」

無視していつも補充してる消耗品を買い足すが、目の端に手紙が映った。


そういえばお姫様に手紙を出すって言っておいて、まだ出していない事を

ふと思い出した。

「すまんが、この手紙も頼む。」

「ありがとうございます。」

そうして、雑貨屋であらかた買い終わった俺は脳筋と合流して宿に向かった。


「お帰りである。」

宿の入り口でサーシャが待っていた。

「部屋は今、武闘大会の選手でほぼ満員だったから一部屋しか取れなかった

である。」

「しょうがないか。」

「とりあえず部屋まで行きましょう。」


部屋に着くと詐欺師は多少、回復している様子で窓のふちに座っていた。

「う~……一生分は吐いた気がするわ……」

「そうか。じゃあ飯でも食うか。」

「この状態で食べられる訳ないでしょ!しかも食べてから三時間くらいしか

経ってないわよ!……うぇっぷ。」

来世分を吐きそうになってる。


「ツカア、そろそろいじめるのはダメ。」

「そうですよ。」

たしなめられた。どこかに俺の味方はいないものか。

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