第80話 船室で

「う~……どうしましょう。」

「どうすると言ってもな、どうもできんだろ。」

「う~!」

うるさい。


「む~……」

今度はサーシャが唸った。

「どうした?」

「さっき海に落ちてから気持ち悪いである。」

「落ちてから気持ち悪い?酔ったとかじゃなく?」


サーシャを見ると身体を払うような仕草を続けている。

「何か身体から白い粉が出てくるである。」

「塩か。」

「塩?海は塩が入ってるであるか?」

知らなかったのか。


「サーシャちゃんは海を初めて見たって言ってたもんね。」

「そうだったであるか。む~……」

肘やひざから先の毛で覆われてる部分に入った塩が取れないようだな。

「待ってろ。今、水を出す。」

「……魔法は使わないで欲しいである。」

どれだけトラウマになってるんだ。


他に方法はないかと考えて辺りを見回す。

そして、ベッドが木枠でできていたので握って一部分を壊した。

「何してるんですか?」

「ちょうどいいのができたな。」


先が少しギザギザで手頃な大きさの木片があったので、綺麗にカケラを

取り除く。そして、

「サーシャ、こっちに来い。」

「?」

胡坐をかいて、その上にサーシャを座らせる。


「刺さらんとは思うが、痛かったりしたら言えよ?」

そうしてサーシャの毛で覆われてる部分に木片――即席の櫛を通す。

「おお、気持ちいいである。」

「なるほど。」

動物をトリミングしてる感じだな。


「~♪~♪」

櫛を通しているとサーシャのテンションが上がり始めた。

「サーシャちゃん、ご機嫌ですね。」

「とても心地よいのである。」


サーシャが見上げるような形で顔を見てきた。

「ツキャ、海に落ちなくても時々やって欲しいである。」

「俺がか?」

「ダメであるか?」

「まぁ暇な時ならな。」

そう言うと、さらにテンションが上がった。


「んふ~。」

「……いいなぁ。」

脳筋が呟く。


「勇者殿、ちょっと酷くないですか?」

「何がだ。」

「サーシャちゃんに優しくするのは構いません。えぇそれは全然.

いいのですけれど、 私達にも優しくしてくれてもいいじゃないですか!」

「私達?」

「リュリュさんと私です!」

脳筋と詐欺師に優しく?


「してるつもりだが?」

「どこがですか!扱いに差があり過ぎます!!私達をサーシャちゃんと同じくらいに

こう……良い感じになるよう接してください。」

「難しい注文だな。」

「どこがですか!」

本当にやかましい。


サーシャが立ち上がり、脳筋のところへ行った。そして手を取り戻ってきて

脳筋を俺の胡坐の上に座らせた。

「アリアもやってあげればいいである。」

「へ?あ、あの?」

しょうがない。すっとんきょうな声を出す脳筋を無視して髪に櫛を通し始める。


「あの、その、え?コレ何?」

「動くな、刺さるぞ。」

じたばたと動いていた脳筋だったが、俺に言われて動きを止める。


「……思ったよりも恥ずかしいんですね。」

「知るか。」

脳筋の髪に櫛を通し終わった頃、サーシャがもぞもぞとしていたので

交代させて、残りの部分に櫛を通し始めた。


「アリア、どうだったであるか?」

「え?あ、あの……心地いいって言った意味が分かる気がします……」

「であろ?」

なぜかサーシャが得意気になっている。

そして、夜も更けていった。

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