第57話 薬師の獣人

「つぐや。」

「ジュニャ。」

「ヅジャ。」


そっちのが言いづらいと思うが。

俺達は村を出て、名前を呼ぶ訓練とか他愛もない話をしながら、

しばらく歩いた。

そして、日も暮れかけた頃。


「ん~、平和ね~」

「そうですね。最近はゴタゴタしてましたから。」

お前が原因の時もあるけどな。

しかも忘れてるだろ。


「こんな状態が続けばいいんだけどね。」

「まったくです。」

足元に魔法陣が現れた。

「は?」「何!?」「え?」


ヒュン!



「あれ?また失敗しちゃいましたかね?」

目の前の光景がいきなり変わったと思ったら、変な子供?がこっちを見てる。

背は140cmくらいで顔は人間だが、耳が垂れて毛に覆われている。

ホーランド・ロップとかいうウサギがいるが、そんな感じだ。

手足はひづめがあり、肘とひざから先の部分が毛に覆われている。


「誰である?」

「アンタこそ誰よ!っていうか、ここどこ!?」

「ここは我が輩の実験室である。」

「分からん。それに、その言葉使いはなんだ?さっきは

そんなんじゃなかったろ。」

「偉そうな言葉遣いにすると、相手との交渉の時に舐められにくいと

おじいちゃんが言っていたので。」

それを今、言ったら意味がないんじゃないか?

それに子供が使うと逆効果だ。


「つまり、なんだ?お前が作った薬の実験をしたら俺達が召喚されたと。」

「そうだ……なのである。」

「言い慣れてないなら使うなよ。」

「我が輩の勝手である。」

面倒くさい。


「ともかく、元の場所に戻しなさいよ。」

「無理であるけど?」

……殴るか?


「待ってください!勇者殿、相手は子供です!」

「何で無理なのよ!」

「そう言われても失敗であるしね。」

確かにそう言ってたな。


「んじゃここはどこなのよ?」

「我が輩の実験「そうじゃなくて、クアーズ王国のどこら辺なのよ!」、

そういう意味であるか。ここはイオネ国家に近い山の中である。」


イオネ国家?

「南の国だったか?」

「そうよ。まさか国の端から端まで移動してるなんて……冗談よね?」

「冗談言ってどうするのである。」

ちゃんとした目的地はなかったので、どこでもいいといえばいいんだが。


「アンタ、名前は?」

「サーシャである。」

「サーシャ?女の子ですか?」

「そうである。文句あるである?」

女は普通、我が輩と言わないと思うが。

あと、無理に言葉遣い変えようとしてるせいでおかしくなってる。


「サーシャ、アンタじゃ話になんないわ。保護者を呼んできなさい。」

「いない。おじいちゃんも結構、昔に死んだである。」

「……悪い事聞いたわね。」

空気が重くなった。

「えっと、近くの村か町はどこら辺にありますか?」


サーシャは窓に向かって歩き出す。

「あっち。」

山が見える。


「あっちって山しか無いですよ?」

「あっちの山を越えると国境都市エツである。」

「道は?」

「道なんてないである。普通に山越えするしかない。」

日も暮れかけてる中、森を突っ切りたくはないな。

詳しい道も分からない以上、迷う危険もある。


「サーシャ、今日はここに泊まるからな。明日エツまで案内しろ。」

「ん~売り物は……明日、薬を用意した後でいいなら。」

「しょうがない、それまで待ってやる。」

随分と強引な気もしたが、相手も承諾したからいいとしておこう。

脅す前に納得してくれて良かった。

さすがに子供を脅すのは趣味じゃない。

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