第55話 カエル再び
飯を食った俺とエーレは宿へと戻った。
エーレは自分の部屋へ、俺は脳筋の様子を見るため二人の部屋を訪れた。
「おい、起き……」
詐欺師が脳筋に頭から胸辺りまで食べられている。
「……!…………!」
顔をペチペチ叩いてるが、効果は薄い。
どうやら、まだ寝ぼけている――ゴリュッ!
今、変な音鳴らなかったか?
詐欺師の手がダラリとぶら下がる。
あ、これヤバいやつだ。
すぐに脳筋の口を無理やり開いて詐欺師を取り出し、回復呪文を唱えた。
「ごはん~……」
ベッドではまだ脳筋がぼ~っとしていたので、
パァン!
そこそこ強めに頭を叩いてやった。
「~~~~っ!」
悶えている。
「何するんですか!」
久々のまともな状態で第一声がコレか。
「あれ、おじいちゃん。どうしたの、そんなところに立って?
好物のヴィヨルがあるって?今行く~。」
こっちは三途の河を渡ろうとしてやがる。ヴィヨルってなんだ?
釣られて行こうとしてんじゃねぇよ。
「はぅあ!ヴィヨルは!?」
気が付いて第一声がコレか。
お前らは二人してまったく。
「あれ?ここどこ?」
「ミルズ村の宿だ。」
「そう。……記憶がぼんやりしてるんだけど。」
「忘れた方がいい事もあるもんだ。」
詐欺師は何とか死の淵から生還した。
脳筋はまだ頭をさすっている。
「も~……急に叩くなんて酷過ぎです。」
寝ぼけてて詐欺師を食おうとしたのを認識してないみたいだ。
「叩きたくなっただけだ。」
「そんな理由で叩かないでください!」
「昨日の夜の事なんだが、覚えてるか?」
「え?昨日の夜?……鍛錬をしようと思って、近くの森の中に入ってから
それから……何がありましたっけ?」
覚えてないらしい。
「いや、覚えてないならいい。」
詐欺師が耳元で囁くように言う。
「いいの?あんだけ暴れてたのを伝えなくて。」
俺も小声で囁く。
「伝えてどうする。元に戻ったなら掘り返す必要もないだろ。」
「……そうかもね。」
脳筋が不思議そうな顔をしてこっちを見ている。
「何、内緒話してるんですか?」
「なんでもない。」
「え~、教えてくださいよ。」
ぐぅぅぅぅぅぅぅ!
デカイ音が部屋に響き、少しの間があった。
「随分と腹が減ってるんだな。」
脳筋の顔が尋常じゃないほど赤い。
「そういや、私もご飯食べてないわ。一緒に行こうか。」
「は、はい!すぐ行きましょう!次、鳴ったら恥ずかしくて死にます!」
そう言って部屋を出ていく二人。
詐欺師が前を飛び、脳筋が後ろを早歩きで付いて行ったが、
さっきの光景を見た後だと、食材を追っかけてるようにも見える。
俺も自分の部屋に戻って寝ようと思いドアを開けたが、
「おや、奇遇ですね。」
カエルが話しかけてきた。
「確か、落し物をしたヤツか。」
「えぇそうです。あの時はありがとうございました。」
合っていたらしい。
他にカエルの知り合いはいないからな。
「この村に着いたばかりでお会いするとは。というか、私の後ろから徒歩で
来られませんでしたか?」
「……いろいろあってな。」
この数日は本当にトラブルだらけだった。
「そうですか。では、後で話でもしながらご一緒に食事をしましょう。
今は商品を売りに行かないといけないので失礼します。」
「待った。」
コイツの商品はアレだよな。
「どうかされましたか?」
「すまんが、あのネックレスは売れなくなった。」
「どういう事ですか?」
事情を説明する。
「なんと、結婚相手が奴隷ですって!?」
「そうだ。」
「下手したら犯罪じゃないですか。それにウチの商品が使われてたと
知られたら……危ないところでした。」
せっかく拾ってやったんだから、ちゃんと売れて欲しかったがな。
「さすがに許せませんね。村長のところに抗議に行ってきます。」
そういや、話し合いとかはどうなったかな?
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