第53話 気持ちの悪い夢 その1

脳筋を背負い、エーレを拾って村に戻った俺はすぐに眠りに付いた。

そして胸糞悪い夢を見た。



とある城の謁見の間と思われる場所に四人の人間がいた。

その四人は男の騎士、黒い肌をした耳の長い女の騎士、

3m近くあるライオンの武闘家、青白い肌をした魔法使い。


「くそっ!どうなってるんだ!?魔物は一体どこから出てきてるんだよ!」

「前線は急に現れる魔物に対応できずに崩壊寸前よ!」

男騎士と女騎士が叫ぶ。


「もうだめだ!王は一体、何を考えているんだ!」

「こうなったら私達だけで   を助けに行きましょう。」

武闘家が困惑して魔法使いが提案する。


「そうだな、今ならまだ間に合う。」

「今、   を死なせる訳にはいかないしね。」

四人は部屋を出ようとして扉に向かい歩き出す。


「その必要はない。お前らどこに行くつもりだ?」

「王……」

急に扉が開き、数十人もの兵士が四人を囲む。

その後から王が現れた。


「しかし、現状を「必要ない。」」

男騎士が声を出すも、王の一言で遮られる。

「そんな事よりも、お告げが出た。」

そう言って、王は四人の元へ歩いてくる。


王の姿はとても気持ち悪いものだった。

立派な冠と豪奢な衣装で見るものを圧倒し、蓄えられた髭は威厳を現していた

……のだろう。

土気色の肌に、木を思わせるようなひび割れた肌、

目がくぼんで血走っているのにギラギラと光り輝いている違和感。

病的な姿をしているのに歩く速度はやたらと速い。


王は女騎士の隣に立ち、

「新しいお告げはな?」

肩を抱き寄せて言った。

「お前がワシの子を産むということだ。」

「え……?」

ニタニタと笑う王。

「今すぐ孕ませてやろう。」

口は裂けているのではないかと思うほど大きく開き、涎が垂れている。


「キャア!」

全員が呆気に取られて反応するまでの間に、王は女騎士の鎧を引っつかみ、

玉座へ歩いていく。

「おい!待て――カヒュッ」

武闘家がいち早く反応したが、兵士の突き出した槍に喉を刺されて

声は途中で消えた。


「お前ら、自分が何をしているのか分かってるのか!」

「離しなさい!離して!!」

男騎士と魔法使いは、反応する前に他の兵士が地面に押さえつけていた。


ダァン!

「――っ!」

玉座の前に力任せに叩き付けられた女騎士は、呼吸ができずにもがいている。

王が人間と思えないような力で鎧を引きちぎっていく。

女騎士が必死に抵抗する。その内、


「貴様……!」

抵抗する際に女騎士の手が王の顔に当たった。

それが頭に来たのだろう。

王は玉座の裏から鞭を取り出した。

鞭は鉄で作られていた。


ビュ!バァン!

「ギャア!」

一度振るうと女騎士が叫び声を上げた。

王は何度も鞭を振るう。


「ギィッ!」

何度も何度も何度も、


「ガァ!」

何度も何度も何度も何度も何度も何度も、


「……!」

何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も、

生きてるのが不思議なくらい鞭を振るわれて、声すら出なくなった時、


ゴキャッ!


こめかみに鞭が当たり、鈍い音ともに女騎士が動かなくなった。

さっきまで必死にもがいていた男騎士と魔法使いも、あまりの光景に

動く事ができない。


「ヒッ……ヒヒッ!ワシが殺した、ワシが殺したんだ!

ヒャハハハファファファ、はへ?おふぁひいは、ひはは……」

高笑いを上げていた王は自分の異変に気付く。

何故か上手く喋れない。


王の前には立ち上がった女騎士。

ただし、目は濁ったまま、肉はちぎれて骨が見え関節はあらぬ方向に曲がり、

死んでいるのは確かだ。

それでもなお動いた女騎士は、


舌が異常に伸びていた。

その舌で剣を巻きつけるように掴んでいた。


「はふぁ!?」

王が間抜けな叫び声を上げると、体の一部が飛んでいく。

舌で器用に剣を扱い、王を細切れにしていく。


そのうちに、兵士達は力なく倒れていった。

だが、男騎士も魔法使いも動けない。

女騎士は窓まで走って行き、そのまま突き破って外へ飛び出した。



「! ハァハァ……夢か。」

ベッドから飛び起きると汗の量が凄かった。

何なんだ、今の夢は。

最悪な気分だ。

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