第52話 可能性に賭ける
ドォン!
後ろから、やたらデカい音が聞こえた。
「邪魔ですねぇ。」
ヒュン!……ミリミリミリ!ドォン!
アリアが周りの木を切り倒しながら向かってきてる。
「マジか……」
俺の進んでる方向は斜面の下側になっている。つまり、
「チッ!」
上から木や破片が転がってくる。
進路が木で制限される。
考えてやってるのか?だったら、いつもの脳筋とは訳が違うな。
引き離すだけだったら問題ないが、距離を保ったままだと
やりづらい事この上ない。
「どうして待ってくれないんですかぁ?」
「下手に戦うと面倒くさいからな。」
「女の子にぃ、面倒くさいとか酷いですよぉ。」
戦うと無駄に能力が上がるのも勘弁して欲しい。
どうする、このままじゃジリ貧だ。
しばらく逃げていたところに、
「ちょっと、あんたら何やってんの!」
何でここに!?
「リュリュさぁん、今の私どうですぅ?」
狙いが詐欺師に向かった!
俺は一足飛びに近寄り、片手で詐欺師を握り締める。
「きゃっ!何すんのよ変た――ふおおぉぉぉぉ!」
何とか詐欺師をアリアの剣から避けさせられた。
あと少しでさらに小さくなるところだったな。
「どうしたのよアレ!?あんな事する子じゃないでしょ!」
「泉に願い事したせいらしい。」
「どういう事よ!」
「細かい話は後だ。」
攻撃を避けながらステータス画面を確認すると、
DEXが390まで上がっていた。
この項目は確か移動速度を上げる効果もあったはず、
「いつまでも逃げる事すらできないか……」
こうなったら、少しでも可能性がある状態で賭けてみるべきだな。
「おい、詐欺師。」
「何よ!」
「手伝ってくれ。」
作戦を詐欺師に話すと、
「ものすっごい危険じゃない!」
「他に策はない。それに時間が経つほど成功率は低くなる。手伝ってくれ。」
「……しょうがないわね!その代わり、絶対助けなさいよ!?」
「善処はする。」
話し合いが終わったところで作戦開始だ
アリアを引き離す。
「勇者殿~?リュリュさ~ん?どこですかぁ?
私、寂しくて泣いちゃいそうですよぉ。」
「ここだ。」
俺はアリアの目の前に姿を現した。
「あ、見~つけた。フフフ、やった見つけたぁ!
でも、リュリュさんがいませんねぇ?」
「小便に行ってくるそうだ。」
”アイツ!……後で覚えてなさい!”
今、詐欺師はアリアの少し後ろの木に回り込んで隠れている。
「ふ~ん?私の相手は勇者殿お一人ですか?」
「そうなるな。」
そう言った後、気付かれないように小声で呪文を唱える。
「そうですか、じゃあ行きますよぉ?」
アリアが足に力を入れて、こちらへ来ようとしている。
タイミングを見計らって詐欺師が飛び出した。
「残念、バレてま「ファイアボール!」」
アリアが振り返りざまに詐欺師を斬ろうとするのを魔法で阻止する。
「!?――ハァッ!」
火の魔法だったので斬れないはずだが、剣圧でかき消す。
最弱とはいえ、俺の魔法をかき消すとは。
「引っ付いたぁ!我、尊き神に願い奉る。目の前にいる者の傷を……」
その隙にアリアに詐欺師がくっ付き、準備が終わった。
「上手くいかなくても悪く思うなよ。」
アリアの懐に潜り込む。
「もし、お前が死んだら俺も死んでやる。」
もう一度死んでも、たいして変わらない。
リュリュがいるはずの場所に剣を突き立てる。
心臓の真横を貫いた剣は、リュリュに当たる寸前で止めた。
「……!」
血が噴出し、体がぐらつく。
「癒したまえ!」
その瞬間にリュリュが魔法を使って、アリアの傷を癒す。
アリアが倒れた。
急いで、息があるかどうかを確認する。
「……」
「起きろ!」
「アリア、起きなさいよ!」
ダメだったのか?
「ん……」
体がピクリと動いて、薄く声が聞こえた。
「良かった~……」
ステータス画面を確認すると【泉の契約】が消えていた。
死ぬほど疲れた。
こんな事はもう2度とゴメンだ。
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