第47話 村長の過去

「あなたが息子を思う気持ちは分かりました。だからと言って、

何をしていい訳ではありません!人の気持ちを考えずに無理やり

結婚させようとか酷いじゃありませんか!」

「じゃあ、どうすればいいというんだ!」

「えっと…それは…」

「ほれみろ、答えられんじゃないか!」


さっきからずっと二人でこんな感じで言い争ってる。

「あんなに大声上げて、よく飽きないよね。」

まったくだな。


二人がギャーギャー喚きあってる最中、ゲェズは家の隅に身を

縮まらせていた。

それでも十分デカイが。


「お前、勝てそうな相手には強いくせに一回、負けただけでそうなるのか?」

「ひっ!…だってオデ、今まで負けた事なかっだど…」

見た目以上に弱気なキャラらしいな。

と言う事は、


「おい、そこのチビ。」

「だ、誰がチビだ!!」

村長に声を掛ける。

「いいだろ、名前を知らんし面倒くさい。」

「私にはグェズという立派な名前がある!」

「デカいのと似すぎてて間違える可能性があるな。チビでいいだろ。」


村長の全身が震える。

「ゆ、由緒正しき名前にイチャモンを付けおって!」

「まぁ、そこはどうでもよくてだな。」

「どうでもよくないわ!」

もう本当にどうでもいい。


「その話は置いといてだ、この息子を4年前の戦争に連れてかなかったろ。」

「それが、今この話と何の関係がある。」

「王の配下に賄賂を渡して徴兵を逃れ、戦争によって男手が無くなった村を襲い、

奴隷を強制的に嫁に迎えようとか、そんなんで寄ってくるヤツいないだろ。」

「そ、それは…」

一応、頭にはそういう考えがあったらしい。


「こいつは頭が回りそうにないし、一度負けたら家の隅で震えるくらい

弱気だからな。実際そこら辺を行動に移した理由はお前の指示だろ?」

「だ、だから何だ!」

「いや、戦争に出てそれなりの成果を上げれば、多少…相当見た目が悪くても、

見られ方が違っただろうにと思ってな。」

「お、お前なんぞに…」

村長が震えながら喋りだした。


「お前なんぞに何が分かる、戦争だぞ?可愛い自分の子供をあんな場所に

送りたいヤツなどいやしない。裏切り、暗殺、なんでもありの世界だ。」

「ヴァファール王国の騎士はそんなことしません!」

脳筋が叫ぶ。


「じゃあ、お前は戦争に行っていたのか?」

「それは…行ってませんでしたけど…」

「なら分からんではないか。実際行われたかも知れないし、何より敵国の兵だけが

敵とは限らんよ。私の父はさらに昔の戦争で自国の兵に嘘の情報を教えられて、

孤立し、死んで行った。」

「…」


脳筋も詐欺師も渋い顔で話を聞いている。

「それを知ったのは、私が宮廷内で少しだけ仕事をしていた時に書類を

見つけてな、たった10行くらいに書いてあるだけ。しかも当事者は死亡、

王もその事については触れもしない。

だから、私は自分の家族は自分で守ろうと思ったのだ!」

「そんな事が…」

「ちょっと可哀想かも…」


「で?」

「「「は?」」」

なんだ三人とも、その間抜け面は?

「は?と言われてもな。で?」


「勇者殿、今の話を聞いてなかったのですか?」

「いや、聞いてたが?」

「ちょっと冷た過ぎない?」

コイツら感化され過ぎじゃないか?


「自分で家族を守るのは結構だが、他の人間は戦争に行ってる訳だしな。

そいつらも戦争に行かせたくはなかったのかも知れないから、

お前と一緒だろうが、他の村を襲っていい理由にはならんだろ。」

「…確かに。」

「その村を滅ぼして奴隷に売ったのも自分達だし、また奴隷を買って息子と

結婚させようとしてるんだろ?同情の余地が有ると思うか?」

「うん…まぁそうだね。」


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