第42話 ミルズ村へ

「そうだ!私達でこの子を逃がしちゃいましょう!」

「ちょっと待って、奴隷なら所有権があるわよ。」

「所有権?」

「だって基本的には召使いとして雇うんだもん」


そりゃそうだ。

「でも、無理やり結婚させられようとしてるんですよ!?」

「それでも急にいなくなったら下手すりゃ私達が誘拐犯よ。」


脳筋がむくれる。

「じゃあ、どうしろっていうんですか!」

「怒鳴るな、村長が雇い主なら会って貰い受ければいいだけだろ。」

「なるほど。じゃあ早速、行きましょう!目指すはミルズ村です!」


脳筋は何も考えずにミルズ村に向かおうとする。

「今は夜だし、今から行っても今日は着かないだろ。落ち着け。」

「むぅ……しょうがないですね。」


普通に話し合ったところで、息子の結婚相手にと金を払って

買い受けた奴隷を簡単に手放すとは思えんが……


「ゲェズってどんなヤツなの?」

「……あまりその、格好良くはないというか、同じコボルトと思えないというか……」

ゲェズ、可哀想に。


「でも戦闘に向いてないコボルトの中でも非常に強く、

多種族とも1人で戦えるとの事です。」

「へぇ~、コボルトは後方支援ってイメージだけどね。」


まぁデカい犬だしな。

普通の犬の身体能力があれば強いんだろうが、見てる限り人間に近い動き方だ。

「そういえばミルズ村の結婚式って、この子とゲェズってヤツのよね?」

「あ……」


脳筋のテンションが下がった。

「う~……結婚式見たかったのに~……」

「あの、申し訳ありません。」

「へ?あぁ別にあなたのせいじゃないし、むしろ被害者だし。

あ、あなたのお名前を聞いてなかったですね。」

「エーレと申します。」


深々とお辞儀をするエーレ。



その時、暗闇から矢が飛んできた。

自分はともかく、他の連中に当たりそうだった矢を弾く。


【弓の心得】をラーニングしました。


「敵襲!?」

「何よ、今の!?」


周りに敵は9人、囲まれているか。

「さっさと出てこい。」


反応がない。

「来ないなら、こっち「その娘を渡せ。そしたら見逃してやる。」」


どうやらエーレを連れ戻しに来たようだ。

茂みが動き、3人ほど出てきた。

「その娘は逃亡奴隷だ。匿っても罪に問われるだけだぞ?」


犬が2本足で立って喋ってる。

緊迫した場面なんだろうが、和むなコレ。


「事情は伺いました!奴隷だからといって、したくもない相手と

結婚させられる身にもなってください!」

「我々は依頼を受けただけでな。その娘がどうなろうと知らんよ。」

「嫌だと言ったら?」

「邪魔者がいる場合、殺していいとも言われている。……殺れ!」


短気なヤツだ

リーダーが命じると2人が動き出した。

1人は剣、1人は魔法で攻撃してくる。

「脳筋、詐欺師、相手できるか?」

「任せてください!」

「チョロいもんね!」


俺は森から飛んでくる攻撃に気をつけつつ、石を投げて攻撃する。

「ギャ!」「グッ!」

悲鳴が聞こえるから当たっているらしい。


脳筋と剣を使ったコボルトが当たるが、

「甘い!」


ギィン!! ガッ!!!


「ガァ!」

腕力だけで相手の剣を弾き飛ばし、その隙にぶん殴って気絶させた。

さすが、脳筋!


「我、尊き神に願い奉る。水を生みて我を守りたまえ!」


詐欺師が水の壁を作り相手の火魔法を消す。


「我、尊き神に願い奉る。目の前にいる者の動きを封じたまえ!」


相手の足元から土が張り付いていき、体と口をうめつくす。

呪文はもう使えないだろう。

俺が戦ってラーニングしたくもあったが、まぁいい。


「中々やるもんだな。」

「これでも騎士ですから!」

「攻撃魔法は苦手でも、このくらいならね~♪」


残りは一人か。

さて、どうするか?


「お前はどうする?」

「…貴様等、何者だ?普通の旅人ではあるまい。」

「何でもいいだろ?で?」


少し間があって逃げ出そうとしたが、

「遅いな。」

「なっ!!?」


追い付き、首根っこを掴んで地面に叩きつける。


「…!!!!」

言葉にならない悲鳴を上げ、悶絶している。


「質問がある。どうやって、ここまで来た?」

「カハッ…ハァ…な、何故そんな事を…?」

「質問しているのはこっちだ。」


少し息を整えて答える。

「ば、馬車だ…」

「じゃあ明日、俺達をミルズ村に連れていけ。」

「勇者殿!?」

「何、考えてるのよ!?」


脳筋と詐欺師が騒ぎ立てる。

「どうせ目的地はミルズ村なんだ。着ければ一緒だろ?」

「そうですけど…」

「さっき殺されかけた人間の言うセリフじゃないわね。」


二人が呆れたように俺を見る。

何かイラッとくるが放っておく。


「エーレもそれでいいか?」

「え!?あ、ハ、ハイ、もちろん!!」


エーレにも確認を取り、襲ってきたヤツらを詐欺師に言って土に埋めさせる。

明日、掘り出すまでそのままだ。


「私がやっといて言うのもなんだけど、酷くない?」

「命を奪いに来て、このくらいで済むならマシな方だろ?」

「そうかもしれないけどね。」

出来上がった9つの土くれに頭が、しかも鼻から上だけが出ている状態は

ちょっとしたホラーみたいでもあった。


「これの隣で寝たくないなぁ…」

「しょうがないだろ、我慢しろ。」

俺達は土くれをそのままにして、少し離れたところで睡眠を取った。



「おはようございます。」

次の日、目を覚ますと脳筋とエーレが起きていて

朝食も出来上がっていた。


「エーレさんが朝食の用意を済ませておいてくれたんですよ。」

「そうか、すまん。」

「いえ、私はお世話になってる身ですし。このくらいはやらせて

いただかないと…」


近くの川で顔を洗い、朝食を食べていたら詐欺師も起きてきた。

「ん~…おふぁよ~…」

「おはようございます。」

「リュリュさんも顔を洗ってきてください。朝食はその後にしましょう。」

「ん~…」


詐欺師はまだ寝ぼけているらしい。

俺はさっさと朝食を食べ終わり、準備を済ませて昨日のヤツらの様子を

見に行った。


「ふご…」「ふ~…ふ~…」「んぐ…」


…アリが顔の上半分を、もぞもぞ動いてる。

苦悶の表情を浮かべて必死に体を揺らそうとしてるが、ガッチリ固まった

土の中では、それもできずに辛そうだ。


「もう少ししたら出してやるから、それまでの辛抱だ。」

声を掛けるが、鼻息が荒くなるだけで返事はない。

当然だがな。


しばらくすると朝食を食べ終わり、準備を済ませた他のメンバーが

こちらへ来た。

「勇者殿、お待たせしました。…その方たちキツそうですね。」

「うわぁ…酷い。」

「私、あんな事になったら耐えられません…」


三人とも可哀想にという感じで土に埋まってるのを見ている。

そろそろ出してやるか。

「詐欺師、頼む。」

「はいはい、分かったわよ。」


呪文を唱えて9人とも土くれから開放する。

「オエッlゲホッ!」「う゛ぇぇ!」

開放された瞬間、口に入った土や体に付いたアリをはたくのに

夢中になってる。

いや、見た目は和むんだ見た目は。


「じゃあ馬車で送ってもらうぞ。俺達の馬もちゃんと連れて来いよ?

もし何かしようとした場合、分かってるよな?」

「…休憩させないとか鬼かしら。」

「勇者殿、時々すんごく冷たいですよね。」


ウルサイな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る