第22話 事情

「そうですか。ネアが…大変お世話になりました。

何とお礼を言っていいやら。」


案内されたのは町長の家とやらで、俺達が出会った経緯を話した。


「ネア!危ないから今年からは行かないようにしようと

約束したじゃないか!」

「でも…お母さんが一人で寂しいかと思って…」

「それでお前に何かあったらどうするんだ!」


心配してくれる親か…そんなものいなかったな。


「まぁまぁ、悪気があった訳じゃないんですし。」

「悪気があるないの話じゃ!っと申し訳ありません、お客人に怒鳴ってしまうとは。」

この男、オガヒという男は町長らしい。


「いえ、子を心配する親の気持ちは凄く分かりますので。ねぇ勇者殿。」

「…さぁな。」


俺にとっては不快な話題だ。

「勇者殿?この方がそうなのですか?」

「えぇそうです。我が国の庇護を受け魔王討伐を引き受けて頂いた

勇気ある方なのです。」

「それは素晴らしい!」

周りに流されただけのような気もするが。


「ところで話を変えて申し訳ありません。この村なのですが。」

そう言うとオガヒの顔が少し暗くなる。

「あまり他所の人を歓迎しない雰囲気というかその、

さすがにあれはちょっと「あのムカつく態度の原因は?」勇者殿!!?」

脳筋に話を任せると遠回しに言おうとしてよくわからん。


「あれはですな、あなた方ではなく後にいた男に怯えていたのです。」

後ろにいた男、盗賊の事か?

「気絶してましたよ?」

「そうではなく…少しこの町のことをお話しましょう。」

そう言うとオガヒは過去を語りだした。


「4年ほど昔の話です。この近くに首都クックスが

魔法で転移された頃「ちょっと待て。」どうされました?」

不思議そうにこちらを見てくる。

「この近くに首都が転移した?あれだけデカイものを転移だと?」

そう言うとさらに不思議そうな顔をして、

「ご存じないのですか?」

と聞いてきた。


「やっぱり非常識…ギャ!」

飲み物に付いてたスプーンを飛ばした。

チンパンジーには躾が必要みたいだ。

「えぇっとですね、4年前はヴァファール王国と西のクアーズ王国の仲は

非常に悪く、国境付近では連日戦闘が行われていました。

さすがに被害も大きくなってきたのでウルム王は隣国の王に停戦、同盟を

提案したのです。」


「国境付近の方々は戦闘から逃れるように首都へ集まっていましたよ…イタイ…」

チッ、もう復活したか

「その時に隣国の王が出した条件がとんでもないもので

今すぐ首都を近付けろというものでした。」

「何でそうなった。意味が分からないんだが。」

「単なる難癖ですよ。停戦する気がないので表向きは首都を近付けるという事は

王の首が近付く、それだけ相手を信頼する事の証などと適当な事を

言ったのです。」


首都が近いと信頼の証とかそんな理屈、子供でも納得しないだろ。

「まぁ戦いを続けられれば、向こうはそれで良かったんでしょうな。

ですがウルム王はこうおっしゃったのです。


”ほう?そんな事でいいのか?”


と。」

「その時に隣国の王に国民の前で宣言させたのです。

どうせできないと思っていたのか、できたら同盟どころか隷属してやる!

とまで宣言しました。」

「結果は勇者殿も知っての通りですよ。首都は近付いて隣国の王は

宣言はなかったと言う事もできなかったんですが、ウルム王が

停戦と同盟だけでいいと言って恩を売り、懐の広さを示したんです。」


聞きたい事は山ほどあるが、とりあえずは話の続きだ。

「で、今の話とこの町にどう繋がりがあるんだ?」

「強い魔物ほど町には近付かないのですが、近くにあれだけ大きなものが

できてしまうと離れてきた魔物が小さい町や村などを襲うようになったのです。

そこで付近を統括していた盗賊団の首領が話を持ちかけてきました。」


弱っているところに甘い話か、詐欺の常套手段だな。

「この町の用心棒をしてやる。その代わり自分達のやる事を見逃せと…」

「それだけなら問題ないんじゃないか?」

オガヒはさらに暗い顔をして

「確かに用心棒はしてくれました。だが、自分たちは好き放題…町の食い物や

金を持っていき、旅人から物を盗む、殺す。しかもそれを町民のせいにして

自分たちは知らん顔…今回、彼らの手下を倒したと知られたらどんな事になるか、

皆それが怖いのです。」


事情は大体分かった。

「悪いことは言いません。今日はもう遅いので明日にでも

出て行かれた方がいいでしょう。

今日はウチに泊まっていってください。ネアを助けてもらった

お礼もしなければいけませんし。」


そう言ってオガヒは台所と思われるところへ歩いていった。

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