第13話 vs王
「朝に一緒にいたではありませんか。急にどうされました?」
ウルム王が不思議そうな顔をしている。
「その割りには話が少し具体的だったな。まるで昨日何があったのか
知っていた感じだ。」
「それは大人ですし。若い男と女が二人きりで朝に一緒ということは
まぁそれなりの事があったのでしょう?恥ずかしがらなくともいいでは
ないですか。」
分からなくはないが、どうする?
この話は止めるか、カマをかけてみるか。
「…まぁそうだな。最初に紹介・・してもらった時はどうするかと
思ったがな。」
「勇者殿も一人でいるより綺麗な女性が隣にいた方がいいのではないですか?
勇者殿に釣り合うほどの女性を見つけるのはヨーグも骨が折れたようで。」
「そういうのは適当でいいんじゃないか?」
「ほう、どのようなタイプでもいけると。やはり女殺しですな!」
「誰が女殺しだ。」
「それにしても…アイツを連れてきたのが大臣だとよく分かったな。」
少しだけ空気が張り詰めた。
「勇者殿が紹介と言われたので、私の代わりに雑務をこなしてくれるヨーグが
やったものと思われましてな。」
「あれは王の座を狙っているからな。むしろお前にバレないように
手を回しているはずだ。」
驚いたような顔をするがわざとらしい。
「ヨーグのヤツがそんな事を…」
「それは置いといてだ。俺に何をして欲しいんだ?」
本題を突きつける。
「何をして欲しいとは?勇者になって頂きたいだけで、それ以上は何も。」
「お前、おそらくだが…狙って口に出したな?」
空気がさらに張り詰める。
「俺がそれに気付かない程度なら上手く口車に乗せられる。気付いたとしても
それを褒めて自分が能天気なフリしているだけだと言って、下に付いたら
得になると思わせる気でいたんじゃないのか?」
王の目がこちら射抜くような目で見ている。
「自分は役に立たないフリをして回りを操っている、そういうのは大体
何か目的があってやらせているもんだろ?そうじゃない場合もあるが。」
「…ハ」
ハ?
「ハァーハッハッハッハッハッハ!!いや素晴らしい!!」
は?
「いやそこまで分かって頂けるとは、さすがは勇者殿!感服いたしましたぞ!」
張り詰めていた空気が解けた。
「で、結局は俺に何をさせたいんだ?」
「別に何も?」
…は?
「いや本当に今すぐやって頂くようなことはないんですなコレが。
あ、魔王を倒すのは別ですぞ。」
「じゃあさっきのやり取りはなんだったんだ?」
「そうですな…周りの人間の能力を把握するのは王の勤めでしょう?」
試されただけ?
「それで決めていただきましたかな?」
「俺の全面援助…これは確約だ。それ以外は要求が出来次第伝える。」
「おぉ!ではコレで名実ともに本物の勇者殿ですな!
では早速、準備をいたしましょう!」
そういうと王はどこかへ行こうとする。
「大臣の事なんだが…」
「何でしょうか?」
「そのままにしているのは頭のいいバカは操りやすいからっていう事で
いいのか?」
気になった事を聞いてみる。
「ハハハ!」
笑いだけ返ってきたのは、そういう事でいいんだろう。
「ゆ・う・しゃ・ど・の。もうよろしいですかな?」
今すぐぶん殴りたくなるような声色と言葉遣いで大臣が近寄ってきた。
「何のお話をされていたので?」
「お前がよく働いてくれているという事だよ、さすが私の右腕だな!」
大臣の顔が赤いような、気のせいか目も潤んでる…こっちを見てきた。
おぞましい。
小太りのおっさんにここまで殺意を覚えたのは初めてだ。
王は大臣を引き連れて今度こそどこかに行こうとする。
「では勇者殿…よろしく頼みますぞ。」
王がこちらを笑顔で見る。
悪寒が走った。
あれは何だ?俺が言った事は当たってたのか?
見落としは無かったのか?隠し事を全部暴けたのか?カマをかけたのは失敗?
頭の中を疑問が駆け巡る。
「まだ何かあるな…」
手の中は汗だらけだった。
あの王様は一筋縄ではいかないと思ったのと同時に相手のスキルを
確認していなかった事を思い出した。
ドラゴンも油断で死んだんだ。気を引き締めなおさないと。
今回は俺の負けだな。
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