第368話: 最終訓練1
「さて、皆揃ったようじゃな」
どうやら俺が一番最後だったみたいだな。にしても、何故みんなそんなにボロボロなんだ⋯。
クロと剣姫リグは衣服が所々焼け焦げており、若干際どい姿になっている。風神セリーヌは息を荒げて大の字になっているし、アルザスと勇者レインは、傷だらけで何処か痛々しい。唯一無事に見えるのはセイリュウだけか。
「そのままの状態で耳だけ傾けてくれれば良い。各々、よくぞ厳しい特訓に耐えてくれた。それぞれの適性を判断し、限界以上に体力や精神力を追い込む訓練を施した訳だが、身体の変化を感じる者はおるか?」
魔王が言うほどそこまで厳しい訓練をされた実感はないんだけどな。むしろアリオト様との最後の特訓紛いな方が死を身近に感じた良い経験になった気がする。他のみんなは一体どんな特訓をしたのか。
「はぁ、はぁ、アンタ絶対いつか殺すわ⋯。魔術師から魔力を奪って戦えとか馬鹿じゃないの?」
寝転んだままの風神セリーヌが右手をグーで突き上げ断固の抗議を挙げる。
「だが、その甲斐あって敏捷性と状況判断能力、そして単純に力が上がっておるだろう」
「⋯確かにそんな気もしなくはないけど⋯⋯って! そんな戯言に惑わされないからね」
「セリーヌ、認めてもいいと思うわ。確かにやり方は強引で常に死と隣り合わせで生きた心地はしなかったけど、私がこれまでやってきた修行なんかよりも短期間でかなりの経験値が上がったのは間違いないわ」
「リグ、レベルは上がったのか?」
「ええ、3もね。正直驚いたわ。レイン貴方は?」
「俺は4増えているな。数値だけで見るならば数年分の鍛錬に相当するだろう」
みんな、そんなにレベルが上がっていたのか。かく言う俺も試練の洞窟から換算すると10上がってるな。どの程度強くなってるのかは実感はないけど。
それにしてもそれぞれにあった特訓か、気になるな。
「あまり魔王を愚弄するなよ」
「すまない、セリーヌには私から言っておくから許して欲しい」
セイリュウの威嚇をリグが宥める。
そういえば2人は元々知り合いらしい。強者同士惹かれ合うものがあるのだろう。
「効果が出ていることは非常に喜ばしい。だが、一つ謝っておかねばならぬことがある。それはな」
どうやらこの異常なまでの経験値効率は、この魔界に来る前に皆が飲まされた怪しい薬の影響らしい。
この薬は数日の間獲得経験値を個体差はあるが数10倍に上げる効果があるらしい。しかし、それは一時的なもので、効果が切れるとその間に獲得した経験値も元に戻ってしまう一時的な力に過ぎなかった。
だよな、そんな美味しい話はないよな。
「つまりは、この効果が持続する間に最終決戦を行う。そのつもりでいて欲しい」
「魔王よ。例えここにいる全員で挑もうが、奴に全く勝機が見出せない。何か策があるのか?」
「人族最強の勇者がなに甘いことを言っておるんじゃ。此処にいる者は皆が一騎当千の実力を持っておる。相手が複数ならば相性を計算し分かれて闘うのがセオリーだが、今回の相手は1人じゃ。故に個々が最高のパフォーマンスでコンデションで挑む以外に彼奴に勝てる方法は無かろう。数の利を活かし休む間を与えずに叩く。これ以外の戦法はない。下手な小細工が通用する相手だと思わないことじゃな」
7大魔王のリーダーエドアール。アイツの強さは尋常じゃない。一瞬の油断が死に繋がる。隙などある訳もなく、確かに策が通用するとは思えない。
「そこで、今から実戦に向けた最終訓練を行う。ついて来い」
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